視線

御剣 叢雲

女性は一匹の猫を連れて彼女の人生を大きく変えた少女と生き別れになった場所までやってきた。その途中ではこの前まで自分と少女が身をおいていた世界が場所を変えて存在していた。
「陽が暮れてきたね…」
山の斜面に立つ女性はオレンジに染まる空を見ながらつぶやいた。
「今日はシチルまで行こうか…」
そう言って女性はまた歩き始めた。

陽が昇ると共に叢雲の陣中からさまざまな音が聞こえてくる。やがて天幕や仮に立ててあった柱などの一切が取り外され、後には焚き火の後や柱の跡であろう穴が点々と残っているだけだった。
「よっし、んじゃそろそろ戦地のど真ん中に突っ込むよ!! 覚悟できてる?」
「もっちろんさ叢雲ちゃん…げこっ!!」
叢雲が戦場に向う兵士たちを前に声をあげていると例のごとく荻生が視界に突然入ってくる。叢雲は反射的に彼にまわし蹴りをはなってそこから追い出した。

たくさんの馬の蹄の音が響く。叢雲たちは西へと向っている最中だった。
「あのさぁ…お願いだからそんな場所に居るぐらいだったら横に居てくれない?」
突然叢雲が馬上でそう言い放つ。
「愛は場所を選ばないのさ」
それに答える荻生の居場所は叢雲の真後ろ、ほとんど密着するような形で叢雲と同じ鞍に乗っかっている。
「はぁ…」
(自分はただでさえ凄まじい馬への恐怖と戦いながら馬に乗っていると言うのに…まあ、一人だけで乗ってるより楽だけど胃が痛い…)
そんなことを叢雲が思っていると突然荻生が真面目な口調になる。
「ところで…叢雲ちゃんは四六時中誰かに見られてるようなこととか…感じたりしない?」
「え? あ、ああ…荻生くん入れて四人以上…とりあえず私がクレアで将軍になってからは結構見られてるね…あんまり監視されるの好きじゃないんだけど…」
叢雲は自分が「荻生くん」と呼んだ事にも気づいていないが、彼につられて真面目な声で答えた。
「考えられる可能性は?」
「まずは帝国とか共和国とかクレアの斥候。それから今の場合だと王国の方からの監視役かな?」
荻生くんは特例だけどと笑いながら叢雲が続ける。
「このうちのどれがあっててどれが違うかは分からないけど…行動を逐一見られてるのって結構ムカツクね」
「う〜ん…嫌な奴らだね…」
「同罪でしょ…全く」
叢雲は馬上で軽く頭を抑えた。

(2002.10.14)


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