戦地にて

御剣 叢雲

「さすがにカルカシアには行けないね…」
偵察に行っていた兵士が最新の帝国軍の部隊配置図をもって叢雲の元にやってくる。
「どうすれば良いかな…やっぱほかの人に聞いた方が良いよね」
叢雲は手に持っていた砂糖とミルクを大量に入れたコーヒーを少しずつ飲みながらふらふらと天幕の外へと出て行った。

「…で、何でついてくるワケ?」
言うまでも無くついてきているのは荻生だが、今日はその様子が少しおかしい。
「…………」
いつもなら無駄に騒々しい荻生が今日に限って何も言わずに叢雲についてきているのだ。
「お〜い…どうかした?」
「……」
叢雲が堂々と荻生の目の前に歩いていってそう言っても荻生は伏目がちにまっすぐ歩いているだけだ。そのまま荻生は叢雲にぶつかりそうになったことにも気づかずにひたすらに歩いていた。
「も、もしかして…」
目の前を通り過ぎていく荻生の姿を見た叢雲の額を冷や汗が流れる。
「……やっぱ寝てる」

「とゆ〜わけで、イリスさんにちょっと相談に来たんですけど」
「そうですね…私のほうからは特にこれといった注文はありませんが…」
そう言ってイリスがおにぎりを頬張る。
「ところでどうしてわざわざそのようなことを聞きに来たんですか?」
柔らかい口調でイリスが叢雲に問いかけた。
「えっ…その…」
その言葉に突然口ごもる叢雲。
「不安…なんです…」
「不安?」
「だって…私この国の人間じゃないし…みんな優しくしてくれるけど…ほんとに信用されてるのかとか…」
うつむきながら叢雲が切れ切れに言い始める。
「普通なら…いきなりやってきた他の国の人間…しかもまがいなりにも将軍なんかやってた人間に部隊任せたり何かしないんじゃないですか? そう思ったら『信用されてるんだな〜』って思ってたんだけど…でもやっぱり不安で…」
次第に早口になっていく叢雲。少し涙声にもなってきている。
「信用されてないのだったら…あんなにたくさんの人たちがあなたについてくるはずが無いと思いますよ」
完全に足元に視線を落としてしまった叢雲を見てイリスはそれだけ言った。

(2002.10.15)


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