叢雲の理由
御剣 叢雲
地平に見えていた帝国の部隊の姿が徐々に大きく見え始める。こちらが向っていることを知ってか帝国軍側にも動きが見えた。二つの部隊の間に緊張が走る。
「行くよ!!」
騎乗の叢雲が一声あげるとそれに呼応するように部隊の面々が前もって打ち合わせていた陣形を保ち、一気に敵陣へと突撃する。
相手の防御を乗り越えて私兵軍の兵士たちが次々と敵陣へと切り込んでいく。斬りつけられた傷から血を噴き出しながら兵士たちが倒れ、地面に真紅の池を作っていく。
それに足を取られた馬ごと地面に倒れる者、噴き出している血を頭から浴びて自分が怪我をしたかも分からないほどに全身が紅く染まっている者など、様々な光景が眼に入る。
個人技に優れていたある者は幾人もの兵士を斬ったものの数人の兵士に一度に攻撃され、何本もの槍を身体から突き出させて死んだ。それがどちらの軍の者かは分からなかった。
仲のいい二人組は息のあった連携を見せていたが片方が怪我をしたことに気を取られたもう片方が隙を見せた間に二人仲良く死んでいった。
そんな間を数人の兵士に囲われた叢雲が走り抜けていく。その後には敵味方を問わない屍がごろごろと転がっていた。
『…一つだけ教えてください』
『…それなら何故あなたは戦うんですか?』
少し前にイリスに問われた言葉が脳裏をよぎる。
――戦争に正義なんて無いんですよ…
何かを信じて、何かを想って、それを守るために戦うんじゃないですか?
『あなたは何を守るために戦っているんですか?』
突然目の前に飛び出してきた敵兵を躊躇せずに斬り払う。
「私が守りたいのは私の存在かな…」
――まあ、もう後には引けませんけど。
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