一時の別れ、永遠の別れ
御剣 叢雲
叢雲はカルカシアに来ていた。
王都では反乱軍が窮地に立たされているというのに叢雲がこのような突拍子も無い場所に現れたことは、たまたまラ・コリスディーを攻略しようとする帝国軍の強力な布陣の穴をつく形となり、叢雲が一方的にカルカシアを攻略しようとする形とも取ることができた。
しかし怪我の功名である上に叢雲自身がそんなことに気づいていないので叢雲たちは常に「いつ帝国軍が襲撃してくるか」と気を張っていた。
もっとも反乱軍が総崩れとなりかけている今の状況ではいつ襲撃されようと結果は同じなのだが…
「クレアに戻れ!?」
突然叢雲にそんなことを言われた緋和は驚いて妙な声を上げた。
「どう言うことよ!?」
驚きと少しの怒りが混じった緋和は叢雲に詰め寄った。
「…今から私がやろうとしてることに勝算なんか少しも無いんですよ……うまく行けば少しは長い間耐え抜けるかもしれないけど終わりは眼に見えてるんだし…」
叢雲はいつに無く真剣に緋和と向かい合った。
「これ以上私のために緋和さんの人生を壊さないでください…これまでどうもありがとうございました…」
そう言って叢雲は無言で緋和に背を向けて天幕の外へと出て行った。
「…うそ……?」
後には呆けた顔をして突っ立っている緋和が取り残された。
朝日が昇る直前、まだ空気も冷え切っている時に緋和は黙って天幕を後にした。
あれ以降叢雲の姿すら見ていない。
天幕が朝霧の中に消えていこうとしていく頃、道の向こうに人の影があった。
「緋和さん…」
「叢雲ちゃん?」
道端に立っていた叢雲と荻生。何故か荻生も旅支度を整えている。
「コレ…二人に渡そうと思って…」
と言って叢雲が髪をまとめている髪飾りを両方外し、一個ずつ二人に渡す。
「それ、一番気に入ってるんだから汚したりしないでくださいね」
「……」
そう言うと叢雲は天幕の方へと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ叢雲ちゃん!!」
「渡すものが何の面白みも無いものでごめんなさい…今なら帝国軍も近くに来てないから…気をつけて帰ってくださいね」
次の瞬間、叢雲は素早く朝霧の中へとその姿を隠していった。
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