御剣 叢雲

戦場から帝国軍に救出され、案内された場所が帝都なのか王都なのか、まったく違う場所なのか…叢雲はわかっていなかった。
陵辱されている間から考えていたこと――それが何かは自分でも分かっていなかったが――を壁に向って考え込んでは周囲の人間が恐ろしいものに見えたり誰彼構わず抱きついてその胸を借りて泣きまくってやりたい気分にも駆られた。
しかし実際には救出されてから一日も経っていない状態である。当然のことだが動き回れるような状態ではない。身体もそうだが精神的な傷はそう簡単に癒されそうにも無いほどに見えない血溜まりを作り上げていた。

「……」
ふと顔を上げた叢雲の姿が鏡に現れた。やつれてる…
咄嗟に――とはかけ離れたほど緩慢な動作で叢雲が幽鬼の様に立ち上がるとそばにあった丸椅子を鏡に向って叩き付けた。
その動作にもロクに耐え切れなかった身体がごろりと床に転がる。
その上に飛び散ったガラスの破片と壊れた椅子の脚が降ってきたが叢雲は微動だにしなかった。
あまり勢いの無いガラスの破片が当たったところで怪我をすることは無い。

「私…何やってんだろ…」
か細い声でつぶやくと、叢雲は壊れた椅子を持って立ち上がると一回一回倒れこみ、途中何度も身体に力が入らずに崩れ落ちながら長時間かけて部屋中のガラスを破壊した。
割れた窓から冷たい風が部屋の中に流れ込む。
砕けた鏡に光が小さく多く反射する。
「御剣叢雲将軍、レヴァイアの今後を決定付ける会議が王城で開かれますが出席されますか?」
閉じられた木の扉の向こうから何度か聞いたことのある声が聞こえてくる。確か伝令の兵士だったはずだ。
ガラスの破片の散らばった床に転がったままだった叢雲はその声に惹かれるように閉じられている扉を朧に見つめながら立ち上がり
「ん〜、んじゃ用意するからちょっと待っててね〜」
と明るい声を上げた。

(2002.11.11)


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