叢雲人物ファイル 〜クレアムーン篇〜
御剣 叢雲
結城 紗耶
紗耶さん。結城光明八幡宮の娘さんでえあ〜どさんにいっつもくっついてたみたい。
私がクレア離れた後に家に呼び戻されたらしくてそれ以降のことは知らない。
赤いリボンつけてる。お萩作ったら誰にも負けないと思う。
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紗耶と叢雲は特別親しいと言うわけでもないし、かと言って互いに無関心かと言うとそういうわけでもなかった。
――と言っても叢雲は紗耶の部屋に堂々と上がりこんでお萩をほおばっていた。
「ん〜…やっぱ紗耶さんのお萩おいし〜ですねぇ〜」
手があんこだらけになるのもお構い無しに叢雲は一口茶を飲むと次のお萩に手を伸ばした。
「そんなに…慌てて食べないでも…」
可愛らしく小さく笑う紗耶。
「きゃっ…どうしたんですかいきなり……」
突然叢雲に頬の辺りを人差し指で撫でられた紗耶は咄嗟のことに身を縮めた。
「あんこ発見♪」
そんな紗耶をイタズラっぽく見ながら、叢雲は人差し指についたあんこを口の中に入れた。
エアード・ブルーマスター
えあ〜どさん。じじくさい蒼い人。でも強い。釣り好き。
通算罠成功回数1000回以上、その内 落とし穴落下回数100以上、タライ激突回数…忘れた。
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「……何だコレは?」
自室に戻ろうとしたエアードはその入り口の前に天井から垂れ下がっている小振りの長方形の板を手に取った。
『頭上注意 叢雲♪』
「二回も騙されるわけがないだろうが……」
あきれたように呟きながらエアードは前回の教訓を頼りに足元を注意深く調べながら部屋の中に入り――叢雲の設置した罠の餌食となった。
「のわっ」
床を注視しながらゆっくりと部屋の中へと進んだエアードの頭上に設置されていた金ダライが突然半回転する。
そしてタライに注がれていた冷水がエアードの後頭部から全身を襲った。
「………」
床を見つめたままずぶ濡れになったエアードはしばらくそのまま動かなかった。
――そしてその頭上に聴きなれた音を立てて先ほどまで水に満たされていた金ダライが落ちてくるのだった。
「かかった…かな?」
紗耶と喋りながらお萩を食べていた叢雲は、ふとその手を止めて廊下の方を見た。
「何か…あったんですか?」
「ん? ああ、別に大したことじゃないんだけどね…え〜と…どっか隠れるとこある?」
「隠れる…ところ?」
「え〜と…とりあえず誰かが私のこと探しに来たら『見てない』って言ってね。じゃあよろしく」
と言うだけ言ってさっさと押入れの奥に隠れる叢雲。
「沙耶…すまないが叢雲見なかったか?」
叢雲が隠れてからしばらくすると、沙耶の部屋の中にずぶ濡れのエアードが姿を現した。
「え、え〜と…見てない…です」
「ん…そうか、いきなり押しかけてすまなかった」
「あの…エアードさん…濡れてるの拭いたほうが…いいです」
そう言って叢雲の隠れている押入れを開けてその中からタオルを取り出す紗耶。
「悪いな…ってアレ何だ?」
エアードの視線の先…押入れの奥には見間違えようのない、叢雲の緑色のツインテールの先が飛び出していた。
「さて…どういうことか説明してもらおうか…」
「ほえ? 何がですか?」
「毎日タライだの落とし穴だの…」
「いつものことです」
詰めよるエアードに小首をかしげる叢雲。
「だから何で俺が毎日壷だのタライだのに襲われて生活しなきゃならないんだ?」
「何となくです」
その時、エアードの後頭部を窓の外から一直線に飛んできた壷が直撃した。
白峰渚
渚さん。妹は螢さん。壷好き。とらえどころのない人だけど明るい人。
帝国のルーデルさんと知り合いだったみたいでよく戦ってた。記憶喪失になって今は帝国にいる。
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「エアード君、今日の壷の出来具合はどうかな?」
「そうだな…普段よりも割れ方が少し派手だな…ってそうじゃないだろ!!」
突然外からエアードに向って壷を投げつけた渚は嬉々としてエアードに問いかけた。
「すごーい、さすがはエアード君。故郷での修行の成果は伊達じゃないね」
「どんな故郷だ…」
「違うの?」
「違うんですか?」
なぜか叢雲も加わっている。
「何でお前まで…」
「違い…ますよね?」
唯一紗耶だけがエアードに懇願するような視線を投げかける。
「当たり前だ」
「酷い! 信じてたのにっ!」
安心したように大きく息を吐き出す紗耶とかなりわざとらしく目頭を押さえてみる渚。
叢雲はなぜか渚の話を真に受けていたらしく、小首をかしげている。
その時、収拾のつかなくなり始めた現場の前を一人の男性が通りがかった。
コマ・スペルンギルド
コマさん。編笠の人。絶対あの下は男装の麗人だと思う。って言うか絶対そう。
「○○萌え」とか言う説が大量に出回ってるけど男装の麗人って事を隠すための囮だと思う。
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「あれ? 何してんすか?」
そこを通ったコマは部屋の騒がしさが気になって中を覗きこんだ。
「ん〜…そういえば何してんだろ」
「いつものことだよね?」
「俺はいつもこんな目にあわなきゃいけないのか…」
「実際そうじゃないですか」
コマの鋭い一言に一瞬その場の動きが止まる。
「あ、日課だったんすか。じゃあ僕のことは気にしないで続きどうぞ」
「………そう言われるとやりにくいよね〜」
「……そうですね…」
「………とりあえず、そこでやろうとするな」
好き勝手なことを言いながら壷やタライを用意する渚と叢雲だったが、ヤル気をなくしたのかそれを手にぶら下げたままじっとエアードの方を見ている。
「あの…お茶どうぞ…」
そう言いながらお茶の葉だけの入った湯飲みを紗耶が持ってくると突然コマの気配が変わる。
「リボン…」
「コマさん…どうかしましたか…?」
「あ、いや、何でも無いっす。リボンかわいいな〜とかでもやっぱりメイリィさんを裏切るわけには行かないとかこれっぽっちも思ってませんって」
妙に焦っているコマ。
「ふんふん…コマさんはリボンと帝国の将軍のメイリィさんが好き…と」
手早くメモを取る叢雲。
「大丈夫、コマ君のこと…ちゃんと生暖かい眼で見守ってあげるからね」
早くも生暖かい視線の渚。
「……」
全てを理解したかのような表情でコマの肩をやさしくぽんと叩くエアード。
「だからなんでそーなるんっす…か……」
突然語尾が小さくなっていったコマのその視線の先には騒ぎが気になったので見に来たのだろう。
ヴェルナ、風華、美雪の三人が立っていた。
ヴェルナ・氷雨・エイザー
ヴェルナさん。綾火さんがいっつもそばにいる。背が高い。金髪がきれい。リボンつけてる。
時々予想もしないことして騒ぎが起こってるけど基本的に静かな人。
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成瀬 風華
風華さん。ぬいぐるみとかリボンが好きな人。よく本読んでるみたい。
とにかく兵法とかの知識が凄い。でも時々抜けてるところがある。
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神那 美雪
美雪さん。リボン装備。おとなしくて丁寧な性格。お化け嫌いとか言ってた。
噂ではキレると大変なことになるだとか無茶苦茶泣くだとか変身するとかいろいろ聞いたことがある。
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恐る恐ると言った風に障子の横から揃ってリボンを結んだ三人が並んで部屋を覗いている様子は…
「………落ち着け、落ち着くんだ…落ち着かなくては…落ち着いて…落ち着き…」
呪詛のようにぶつぶつと編み笠の中でつぶやき続けるコマ。その後頭部に飛来した壷とタライがほぼ同時に命中した。
「ぶっ…」
一言、うめき声を上げて倒れるコマ。
「い・・・いやあぁぁ〜〜っ!!」
コマが倒れた直後、突然叫び声をあげて部屋の中に駆け込んでくるヴェルナ。
一瞬自分を心配してくれたのかと朧げな意識の中で思ったコマだったが、本当は突然背後に現れたクモが怖くて逃げてきただけだったヴェルナに思い切り後頭部を踏みつけられ、その意識を失った。
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