少女

御剣 叢雲

最早この光景には慣れきっていた。最後の最後まで固まっていた兵たちが意図も簡単に相手の兵によって離れ離れになり、そして阿鼻叫喚の中へと消えていく。
それでも自分の周りにいた兵士たちは果敢に相手を責めながらも一人、また一人と血飛沫を上げて倒れていく。
――早くに戦場のどこかへ飲み込まれていった集団は護るべき将が目の前にいない為に降伏することもできる。命も助かるだろう…その意味では彼らの方が幸せかもしれない。
「とにかく一人でも多く倒すよ!」
既にこの人数差の上では作戦などあって無きに等しい。その前に作戦を立てるだけの人数すら残っていない状態だ。

結果は当然敗北。200人前後の兵数で共和国の勇将が三人集まった部隊に対してその倍以上の数の兵を失わせることができたのは上出来ではあったのだろう。
既に誰もが斬り合う事をやめ、叢雲とその周囲に残った十数名の兵たちがその身を寄り合わせながら自分たちを囲む敵兵を見据えていた。
「ぐすっ…」
と、突然叢雲の真後ろで一人の女兵が泣き出した。それなりに背は高く、歳のほどは叢雲より少し下といった程度だ。
付き合い始めたほんのわずかだった彼氏が兵士となって死んだために軍に志願した少女だ。
戦場では常に叢雲の近くにいた為にこの最後の時にまで残ってしまったのだろう。まだ敵が攻撃を仕掛けてくる前ならば逃げる機会も会っただろう、しかし彼女はそこにいた。
このままでは確実に彼女は命を落とすか…それよりも耐え難い目に会うことになるだろう…恐らく叢雲が救出されたとしても彼女は半永久的に…

声を押し殺して泣いている彼女の頭に叢雲が軽く手を置く。顔中を涙でぬらした彼女は慌ててそれを拭くと真っ赤に充血した目で驚いたように叢雲を見た。
「うまくいけば相手の包囲陣は敗れる…でっかい音がしたらこっから西に向って走ってね。私のことは放っておいていい」
それだけ言うと叢雲は片手にぶら下げていた抜き身の愛刀をじっと見つめる。
「……っ!!」
堅く目をつぶり自分の願いが成就されることを祈りながら轟雷刀を大上段に構え、
「〜!!」
それを思い切り振り下ろす。そして…

沈黙が広がる。

「駄目…だった…?」
悔しそうな表情で空を見上げる叢雲。しかし、その視界に突然凄まじい閃光が飛び込んだ。
同時に地をも揺るがすほどの轟音が幾重にも響き渡る。
「雷の…道?」
共和国の兵士たちの包囲網を蹴散らすかのように地面と平行に駆け抜けていく。
その跡は電気ショックにやられた共和国の兵士たちが倒れ、その場所だけは突破することが可能になっていた。
「今のうち! 早くっ!!」
その言葉に逃げることを思い出したかのように兵士たちが駆け出す。泣いていた少女もその中にいた。
「さてと、私は……あ…ど、ど〜も」
叢雲だけは共和国の兵に捕まってしまうのだった。

(2002.11.28)


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