捕虜
御剣 叢雲
部隊が壊滅し、捕虜となった叢雲だったがその対応はいたって紳士的だった。
まず拘束すらされていない。一応武器(刀、タライ等)は取り上げられたものの「将軍の元に連れて行く」とたった一人の兵士に案内されている。
指揮官は兵士からよほど信頼されているのだろう。
でも自分を案内してる兵士とか周りでこそこそ見てる兵士たちのイタズラでもする直前の子供のような気体に満ちた眼差しって…?
「あの〜…」
こらえきれなくなって叢雲が口を開いた。しかし続ける言葉が見つからない。
「いや、やっぱいいです…」
その後もしばらくそんな気になることを多々残しながら叢雲はゲイルの前に案内された。
「……………先生! おなか痛いような気がするんで保健室行って来ます!!」
「おう、一人で大丈夫か? …って何で俺までノらなきゃいけないんだ…」
「とりあえず帰らせてください…」
ジト眼でゲイルを見据える叢雲。
「まあ…そりゃちゃんと送り返すぐらいのことは当然だが…」
「じゃあ帰ります。ありがと〜ございました」
「いや、だからちょっと待ってくれって…こっちも捕虜にした手前ほいほいと帰すわけには行かないんだ…聞きたいこともあるし…しばらくここに居てもらいたいんだが…」
下手に出るゲイル。
「じゃあ要件を手短に…13字以上14字以内でまとめてください」
「それはいくらなんでも無理だ…(13字)」
どっちが捕虜なのかゲイルは自分でも分からなくなりそうだった。
「とりあえず何か食べるか…?」
「何かって何ですか?」
「たいした物は無いんだけど…ステーキぐらいならあるだろうな…」
「聞きたいことって何? 何?」
ゲイルはとんだ部隊を壊滅させてしまったとなんとなく空を仰いだ。
「ん〜…クレアからレヴァイアに行ってたのに帝国側で戦ってる理由…ですか?」
最初ははっきり言って怪しさ爆発なゲイルの姿を見て絶対無事に帰れないと警戒していた叢雲だが、徐々にゲイルの性格を把握し、外見と中身が違うと結論付けるとそれなりに打ち解けていたようだった。
「単純に言えばその場のノリです」
「ノリって…」
意外すぎる一言にゲイルの思考がはるか彼方まで吹き飛ばされる。
「『引退する』って選択肢とかは無かったのか?」
「……あっそんなのもあったんだ」
「…うっ…!」
と、突然うめき声を上げて視線を落とすゲイル。
「ん? 大丈夫ですか?」
「…あ、なんでもない…大丈夫だ…です」
突然様子がおかしくなったゲイルに叢雲は軽い不安を覚えた。
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