終幕
御剣 叢雲
高き塔は雷鳴とともに崩れ落ちる
その頂から逆さに落ちるは偽りの少女
見失った己を虚構の鎧で作り上げていた少女は再び無へと落ち、無へと戻る
――少女は己の姿を捜し求めながら再び小さな塔を築き始めた
今日もいつもの店でいつものように食事をする。
彼のお目当てはその店の売りであるいろいろな地域の料理を食べることでもあった
が、それを作る少女に愛に来ることだった。
いつものように店へやってくると彼のお気に入りの席は運良く誰も座っていない。
ここが少女の姿が一番よく見える彼にとっての特等席だった。
「じゃ、じゃあ今日はネギトロ丼をもらえるかな…? む、叢雲ちゃん」
どもりながらそういう彼の言葉にも少女は笑顔で答える。
結局彼は一食の値段としては少し高いような食事を彼自身にとっての最大の幸福感と共に味わうのだった。
月日が流れるのは早い。
再び戦乱が大陸を襲い、その中でもひっそりと戦争とは無縁に過ごしてきた叢雲とその娘、秀華は慌しく、にぎやかな生活を送っていた。
二人はとことんマイペースに料理屋を続けていた。しかしそこに集まる様々な情報は、今となっては彼女たちにとって必要ではないものとなってしまっていた。
そんなこととは関係なく、その料理屋訪れる者たちにとって、彼らの世界は永遠に続くものであった…永遠に続くものでなくてはいけなかった。
しかしそんなある日のこと。
彼は今日もその店に来ていた。もう数年にもなる。
その日も彼は叢雲に何か食べるものを注文し、それを持って叢雲が彼の元にやってくる時を心待ちにしていた。
と、店の表に突然現れた一人の男性の姿に驚いたように料理の手を止めて叢雲が駆け寄る。
うれしそうに男性と話しながら秀華を叢雲が男性に紹介する…彼にとってその内容はどうでもよかった。
彼が咄嗟に手にしたものは…一振の脇差だった。
突然『何か』が背中から胸へと通り抜ける感触が叢雲を襲った。痛みは無い。
何が起こったのかがまったくわからないまま、叢雲は空の顔へと斜め上に上げていた視線をふと自分の胸に落す。それとほぼ同時に胸から背中へと『何か』が抜ける感触――
そして叢雲の視界が突然真紅に染まる。
赤く霞のかかった視界に朧気ながら空と秀華が見える。それが次第に傾いていって…
一番最後に叢雲は秀華の悲痛な叫び声を聞いた。
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