転機(カルスケートにて)
御神楽 薙
カルスケート西部
「伝令! ヴェルヴェット将軍が敵将ゲイルと一騎打ちを展開! 詳細は不明ですが、どうやらヴェルヴェット将軍が敵将を負傷させた模様! 敵は一時後退しました!」
前線から早馬が駆けて来る。
「そうですか・・・。モリス将軍の部隊に動きは?」
「数刻前からキロール隊の攻撃が激化! ジリジリと押し込まれています! このままでは突破されるのも時間の問題かと!」
「・・・・・・ヴィシャス将軍に伝令。これより迂回してきた敵本隊が到着するはずです。警戒するように、と。我が隊はしばらくの間、このままモリス隊の援護を続けます。」
「はっ!」
さっきからひっきりなしに飛び込んでくる伝令にジョシュアさんは一つ一つ素早く対応している。
オレはその間何かあったらいつでも対応できるようにジョシュアさんのすぐ横で控えている。
毎度の事とはいえ中々神経がまいる・・・・・・。
数十分経過・・・。
「正面の敵部隊壊滅!! 詳細は不明ですが敵将キロールは重度の負傷! 戦線を離脱した模様です!」
!!!!!!!!!
思いがけない吉報に驚く。まさかこんな短時間で・・・・・・。
「確かですか?」
「はっ!」
「ならば今のうちにモリス将軍の部隊に・・・・・・」
「伝令! 迂回してきたと思われる敵第二波の接近を捉えました!後10分ほどで接触します!」
「伝令! キロール隊の後方より恐ろしい速度で敵別部隊接近!モリス隊と交戦を開始した模様です!」
指示が終わる前に次の、しかも重大な報告が矢継ぎに飛び込んでくる。
「くっ! ついに来ましたね・・・。それに正面のフォローも早い・・・。後詰はもうなかったはずなのに・・・・・・。」
「どうやら迂回した部隊を全力で戻したようですね。」
・・・・・・・・久しぶりに口を開けた(汗。
「この雨の中、よくそんな真似ができますね・・・・・・。しかしそれならば正面に戻った部隊にも相当な疲れがあるはず・・・・・・。それに、正面の戦線維持を考えると、こちらに回せる追加兵力も多く見積もっても2000ほど・・・・・・。先程よりは随分と事態が好転しましたね。」
さらに数十分経過・・・。
「報告します! モリス将軍の部隊は先ほどのキロール隊との交戦の結果著しく損耗! 続く敵部隊の突撃を受け、これ以上の戦線維持は不可能と判断! 撤退するとのことです!」
「ヴィシャス将軍の部隊が敵の新手と交戦を開始! 連戦となるため部隊の疲弊が目立ちます。やや押され気味の模様!」
「わかりました。では我々はモリス将軍の退路の確保に当たります。第一次防衛線は放棄。第二次防衛線に戦場を移します。ヴィシャス将軍にもそのように伝えてください。」
「はっ!」
「あなたはキリグアイに援軍の要請を。」
「はっ!」
・・・・・・防衛戦なら接近戦もあるな。
「・・・・・・出番、みたいですね。」
「薙さん・・・・・・。無理はしないで下さいね・・・。」
「・・・・・・死にはしませんよ。大丈夫。・・・・・・それより自分の心配もしててくださいよ?乱 戦になる前には帰ってくるつもりですけど、それでも敵が来ることには変わりはないんですから。」
本当はわずかな間でも離れるのは不安なんだが、少しでも安全なうちに敵を減らしておきたいし。
「・・・・・・それは、確かに薙さんには勝てないですけど、私だって帝国の将軍ですよ? 自分の身くらい自分で守れます。戦場で、いつも私につきっきりになる必要はないです。」
「はは、オレの我侭ですよ。………………………………………………………………あ、ひょっとして、迷惑…ですか?」
「いえ、そんなこと!! ・・・・・・ただ、戦場では他人を気遣っていると本人が危ないですから・・・」
まあ、確かにそうだよな・・・。けど、それでもオレがそうしたいんだし・・・。
それにしても、相変わらず優しい人だ。この優しさが特別な物だったら…と何度思ったことか…。
「まあ、大丈夫ですって。今までオレが大怪我したことありますか?」
「・・・・・・・・・・この一年ちょっとで何度も。」
「・・・・・・ごめんなさい、戦闘中に・・・です(==;」
思い返してみると、確かに日常では結構怪我してるなぁ・・・。って、今はそんなこと思い出している場合じゃない。
「それは確かに、今までは死ぬような怪我はなかったですけど・・・・・・。」
「そういうことです。っと、敵がそろそろ来るかもしれませんし、オレは行ってきますね。」
「…………はい、お気をつけて。」
こんな時くらい、もう少し気の利いたことでも言えないものか、などと、やや自分を責めつつオレは前線に向かった。
カルスケートの戦いの一つの転機が終わり、もう一つの転機にさしかかろうとしていた。
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