士官

御神楽 薙

クルス暦1252年。帝国による二カ国同時侵攻より一年程前
帝都士官学校にて

「でりゃあ!」
 咆哮とともに生まれた気合が、手にした得物を通じて発揮される。振り下ろすときに押しつぶした空気 が悲鳴を上げて、腕にまきついた。
 そのまま、一閃。
 棍は勢いを殺そうとした槍ごと、相手の兜を叩き潰した。
「ぐ…あ……」
 うめき声をあげて相手は崩れ落ちる。

「よっし、次!」
 気の高ぶりと乱れた息を整えるために、一度大きく息を吐いたオレは、気の萎えないうちに次の相手を探した。
「……もう、相手がいません」
「え……?」
 セコンド、というより今回の訓練にこの場所を紹介してくれたミルが溜息交じりに呟いた。呆れた様子が長い髪が小さく首を振るにあわせて揺れることからも窺える。
 ふと、張り詰めた気を解き、周りに目をやってみて、初めて自分のしでかしたことに気がついた。
 死屍累々。
 もはや試合場を定めた枠線の内外に関わらず、足の踏み場がなくなっていることに初めて気がついた。
 よく踏みつけなかったよなぁ…。
「薙さんが加減をせずに打ち込むから……みんな起き上がることも出来ないみたいです…」
 いや、これでも加減しているんですよ。と、心の中で呟いたものの、口にまでは出てこなかった。人間外だとか、非常識人間だと思われるのは親父との一件で十分だったからだ。


「とりあえず、お水です。」
 冷えた水を差し出しながら、ミルは不思議がる様子を隠そうともせずこちらに向けていた。綺麗な青い目がとぼけたい心を貫いているような気がして、どうも落ち着かない。
「でも、どうしたんです? 突然、稽古の相手を探してくれだなんて」
「ああ、いや……オレもさ、軍に入ろうと思って」
 さらっと流したつもりでも、彼女はしっかりとその言葉の意味を受け取り、目を丸くした。
 確かに不法越境の罪で捕まって、未だ保護観察の人間が、散々お世話になった軍に入隊するというのは、珍しがられるのも無理はないと思う。
 思うけど、顔に出されると、やっぱり悲しいです…。
「ほら、オレの取柄ってせいぜい体力くらいだし……。役に立とうと思うとこれくらいしか…。……定職もまだ無いし…。」
 自分で言ってて泣けてきた…。切なさが身にしみる。
「それならすぐに詰め所に行って採用試験を受けたらいかがですか?」
「………まだ保護観察処分解けてないから……とりあえず、腕だけでも磨いておこうかと」
 なるほど、とミルは納得の言葉を口にした。だけれども、周りの様子を見回して苦笑いをしながら言葉を付け加えた。
「ジョシュア将軍に相手を紹介してもらえばいいんじゃないですか? 帝国将軍には強い方がたくさんいますよ?」
「それは、確かに頼んだらジョシュアさんは相手を探してくれるだろうけど………どこの馬の骨ともわからない人間を紹介したりしたら他の将軍も迷惑だろうし。なにより、役に立ちたい人本人の手を煩わせるのも」
「……それで、私ですか。」
 ごめんなさい。でも、他に頼めるような人がいなかったもので…。
 僅かに恨みがましい目を向けられて、オレは言葉を詰まらせた。慌てて話を続けた。
「士官候補生なら強い人間も多いと思って」
「で、このありさまですか。元々教官たちに内緒でやったことですし……ばれたらコトですね……。」
「………意外に脆かったなぁ……。」
 そうしてミルとオレは申し合わせたように再び溜息を吐いた。


「何事ですか、これは?」
 ん? 来客か?
 声の方に目を向けると一人の女性が立っていた。年のころは二十代前半〜中頃といったところか。逆光でよく姿は見えない。
 戸惑いを隠しきれない様子に口を開こうとしたが、そこで気安さはピタリと止まった。女性の後ろにいる人物の存在に気がついたからだ。
 まだ入口を通っておらず、その姿は見えない。だが、強烈な威圧感、存在感だけが入り口を通ってここまで漂ってきているのが分かった。少々の人物じゃない。体が緊張と畏怖で自然に強張ることで分かる。戦闘態勢をとるべき、と頭のどこかで激が飛ぶもののなかなか神経が反応しない。
 体と意志が一致せず、身動きがとれないまま、その人物が太陽の光を背に姿を現した。
 その姿を認識したミルが悲鳴にも似た声を出す。
「こ、皇帝陛下!?」
 え!? ミル? こ、皇帝って…あの?
 しかし、ミルやオレの焦りに答えることなく、皇帝?セルレディカ・フォン・ラグライナは室内の様子をぐるりと見渡した。異様な光景だろうに、皇帝は眉一つ動かさない。そして、ゆっくりと室内で意識を失っていない二人、つまりオレ達を見据えた。
 な、なんだかすごく怖いんですけど…
 支配者の空気にすっかり飲まれているのを実感しつつも、説明の言葉をなんとかあげようとする。だが、その言葉をつむぐのはミルの方が断然早かった。
「ど、道場破りです!!」
 なに!? ミルさん、今なんとおっしゃいました!? 道場破りってオレですか?
 嫌な汗が背中をたくさん流れるのを感じつつ、オレはそっとミルを見た。ちょうどその瞬間、ミルがこちらに送る視線とぶつかり、視線にこめられた言葉が浮かんでくる。
『ごめんなさい』
 う、その目は反則だって……。し、しかたがない、そういうことにしておこう……
 あとでなんとかフォローしてくれるだろう………多分。
「ほう…………見た所40人程いたようだが……ふむ…」
 皇帝陛下がなにやら思案を巡らせる様子を見て、オレの背中に流れる汗がどんどん増えていくのを感じた。
 嫌な予感が頭の中だけでなく全身を駆け巡る。こういう時の予感というのはあまり外れたことがないんだよなぁ。
そのとき、皇帝陛下が重い口をゆっくりと開いた。
「ネル、相手をしてやれ」
「は、はい。かしこまりました、陛下!」
 ああぁぁぁ……やっぱり〜〜〜〜………。


 とりあえず、屋外訓練場に出てオレは皇帝が相手として指名した女性と対峙した。
 こちらの得物は棍から薙刀に換えている。先ほどまでの棍はいくつもの武防具を叩き砕いたために、芯がゆがんだり、また見た目にもいくつかヒビがはいっている。薙刀に換えたのは…探した中で一等頑丈そうだったから。先ほどの試合からもう何本も自分の得物を砕いている。今度は実力的にも全力であたらないといけない以上、自ら得物を砕くわけにはいかない。まだ没収されたままの愛刀ほどじゃないにしろそれなりに丈夫だろう。
 相手も薙刀持ってるし……。
 試合場の中央に足を運ぶと、その場を取り囲む兵士達の視線が突き刺さった。
 ひょっとしてこの勝負に勝ったら今度はフクロにされるのでは……。
「安心しろ。この勝負に勝ったら見逃してやろう」
 う、顔に出てたか……。でも、それはありがたい。
 気合を入れるためと、顔に出すぎているらしい表情を和らげるために顔を少し叩いて、オレはネルさんに向けて薙刀を構えた。
 それに対して、ネルさんには切っ先から柄までまっすぐ構えた。こちらからは切っ先の一点しか見えず、距離感が上手くつかめない。
「始め!」
 突如、号令が下った。
 同時にネルさんが、大きくステップを踏み込んだ。槍や薙刀ほどの長さでも数歩は踏み込まなければ、間合いに入らないというのに、それをワンステップで、確実に捕らえられる距離まで縮めてしまった。そしてそこから腕を突きだされる。
「っち!?」
 受けれたのは偶然だったか、体が反射的に動いたのか。点にしか映らない薙刀がそのまま飛び掛ってくるのを、切っ先で受けて、その軌道をオレの肉体から逸らす。それがいつ突き出されたのか、それがどこまで近づいていたのかなどは弾いてから理解したくらいだ。
 ともかく、反撃の手合いを見逃すワケにはいかない。受けに使った得物を力の流れを無視して、強引にネルさんの身元に押し込もうと…
「はあ!」
 気迫の声がオレの行動をとどめた。無形の力が束縛する。
 一瞬。それは確かに一瞬だったけれども、確実にオレは反撃の機会を失ってしまった。受け流された彼女の武器は力のゆがみを正しい流れに戻り、そのまま、柄がこちらに向かってきているからだ。
 これも紙一重。ほとんど勘だけでかわす。もはや視界には風にも似た何かか身体の周りを吹きすさんでいることくらいにしか見えない。
 連撃はとまらず、薙刀の刃が後方から引き戻されるように切り刻もうとするし、その次にはまた距離が分からない点突が連続して続く。とても簡単には真似できるものではない。そもそも早すぎてほとんど分からないし。
「くっ!?」
 嵐のようなコンビネーションをほとんど反射と勘だけでかわし、捌く。
「今のタイミングで、全てかわした?」
 やっと一段落ついたのか、攻撃範囲から一歩外れたところに戻ったネルさんは驚き、そう言った。
 それはこっちも同じなんだけど…今、どこからどうやって攻撃したんだ?
じっとりと手に浮かぶ汗を握りしめて、薙刀を持ち直す。ネルさんの方も再び構えなおし…げ! もうきた!!
 さっきとはまた違うコンビネーション。細かい切り払いと共に、四肢に向かって時々大きく牽制の袈裟切りが飛び掛る。一撃一撃はそんなに重くはないが、そんなことは問題にならないスピードと技量だ。
 ……………………強い!!
 そう確信した、次の瞬間オレもう覚悟を決めた。
「ぬぅあ!」
 防御なんてしていられない! 一気に勝負を決めさせてもらう!
 細かな切り払いに、服や皮膚が浅く薙がれるも、攻撃に転じた全身の力を止めるまでには至らない。軸足を、上半身を、腕を、得物を持つ手、全て捩れを作り出し、最大限の膂力で薙刀を天中から渾身の振り下ろしを放つ!
 狙いはネルさんの薙刀! 武器を破壊してしまえば少なくともこの連撃は封じることが出来る!!
「!!!」
 ネルさんの体が動いたが、遅い!! このまま終わらせてもらう!!

 地面をえぐり、小さな揺れを巻き起こすと、薙刀は役目を終えたとばかりに中程から折れた……。そして土煙が舞い、お互いの姿を隠す……。
「!!!?」
 次の瞬間、オレはネルさんに組み伏せられていた……。

「勝負あり……だな。」
 煙が晴れると、真っ先に皇帝陛下の台詞が聞こえた。
 ええ、勝負ありですとも。これ以上ないってくらい……。どこをどう極められているのかわからないけど、全く動けません。
 強引に抜けようとしたら確実に腕か足が一本くらいは犠牲になりそう……。目や口に入ってこようとする砂煙を払うこともできず、オレはそう感じた。

「ふむ、こんなところか。…………ネル。この若造はどうだった?」
 ようやくオレの顔の位置も砂埃がましになったかというタイミングで陛下は再度口を開いた。
「え? どうだった、といいますと?」
「強かったか?」
「は、はい。今回は勝てましたけど、次も確実に勝てるという保証はできません。」
 おお、嬉しいことを言ってくれます…。
「成る程な。若造……名は?」
 陛下の視線がこちらを向いたのが気配でわかる。
「……………御神楽 薙。」
 組み伏せられたままでかなり間抜けな格好だろうが、とりあえず自己紹介をさせてもらう。
「この間の国境破りか………。」
 あれ? オレって結構有名人ですか?
 などと下らないことを考えていると…
「まあ、あれだけの騒ぎになればな……。」
 また考えを読まれました……。陛下ってエスパーですか?
「それだけ顔に出ればわかる。」
 ……………。もう陛下と喋っているときにくだらないことを考えるのはよそう……。下手なことを考えるとそれも顔に出そうだし……。
 などと考えているそばからまたくだらないことを考えていると……
「御神楽、貴様、軍に入らんか? その武力はなかなか惜しい。」
 !!!!!
 予想もしなかった申し出に思わず頭を上げる……って痛ぇ!そういえば極められてるんだよ、今……。
「へ、陛下?」
 あ、ネルさんもびっくりしている。がっちり極められているせいでネルさんの顔を見ることができるほど首を回すことは出来なかったが、その声と気配はネルさんの心情をを察するのには充分だった。
「それを見極めるためにネルをけしかけたのだ。あれだけ動ければ兵としては申し分なかろう。」
 こちらとしては渡りに船…オレはすぐに返事を返す。
「…………是非。」
 たった一言、しかし迷いなど微塵も無いそれ……。きっとこの人には、これだけで充分だ。
「ほう、いやにあっさり決めたな……。………初めからそのつもりだったか。」
 いや、厳密に言うと今回は少し違うんですけど……面倒だからいいです。
 結果的には、変わらない……。
「まあ、いい。ネル、お前は御神楽と少し話しているといい。お互い今の立会いで思うところもあるだろうしな。……そこの士官候補生は校内の案内を頼めるか?」
そう言って陛下は身を翻した。マントがはためき、周囲の微量の砂を舞い上げる。
「は、はい。かしこまりました!」
 ちらりとこちらを見てから、ミルは慌てた様子で陛下の一団の後についていった。

「え、えと改めて始めまして。皇帝陛下直属の護衛部隊に所属しています、ネル・ハミルトンと申します。」
 戒めを解いた後、そう言ってネルさんはぺこり、とお辞儀をした。綺麗な金髪がふわりと流れる。オレも慌ててそれに倣う。
「あ、オレは御神楽 薙です。身分は……保護観察処分中で、住所は…一応、城になる…のかな?」
 一通り自己紹介を終え、先ほどの立会いの話に移る。
「しかし、よく最後の一撃を捌きましたね……」
 ネルさんに言う。オレの率直な感想だ。
「あ、あれですか? 振り下ろしだったのでかわしながら斜めに力を逃がしたんですけど……凄いですね、それでもあれから手が痺れっぱなしです。」
 手をひらひらと振ってネルさんは答える。
 必要最小限の動きであれを捌いたのか……かわせないのはもちろん、捌くことも出来ない一撃を放った自信はあったんだけどなぁ……。オレもまだまだ甘いようだ……。
「私からも質問しますけど、なんで最後の攻撃は後一歩踏み込まなかったんですか?そうすれば、こうも簡単に……下手をすると捌けなかったかもしれないのに……。」
 まるで、オレが後一歩踏み込む余裕があったと断定しているような言い方だった。実際そうだったのだが、見透かされていたみたいだな……。
「…………できれば武器だけを破壊したかったんです………。オレの渾身の一撃がまともに当たると間違いなく相手を殺してしまいますから……。まぁ、当たらなかったんですけど…。」
 視線をさまよわせながらオレは正直に言った。誤魔化すことも出来ただろうが、オレにはは出来なかった。
「甘さは相手に対する隙を生みますよ?」
 …………ぐぅの音もでません…。実際あの直後にあっさり組み伏せられたんだし……。
「…………これからは戦場に出ることになるでしょうし、その考えは捨てた方がいいと思います。」
「はい、オレも敵に容赦するつもりはないです。」
「そうですか……。」
 ネルさんは、ほんの一瞬複雑そうな表情を浮かべる……。
「それはそうと……。ネルさん、暇があればちょくちょく訓練に付き合ってくれませんか?」
 とりあえず話題変更…………。
「は、はい? べ、別にいいですけど……。何でですか?」
「ええと…………」
 さっきミルに言ったことをもう一度話すことにする。
「はぁ……そういうことですか、わかりました。」
「あ、ありがとうございます!」
「ネル。そろそろ行くぞ。」
 向こうから陛下が歩いてくる。横にはまだがちがちに緊張しているミルの姿も……。
「あ、はい。かしこまりました。」
 ネルさんは一度お辞儀をして駆けていった。
 門のところまでミルと一緒に陛下の一行を見送ったあと、ミルが盛大に脱力した。
「つ、疲れました〜。」
 それは、見ればわかる。これでもかってくらい。
 相手は皇帝陛下。真面目なミルにとってミスなんて絶対出来なかっただろうし……。
 ……ん? ……そういえば。
「なあ、ミル。陛下はなんでこんなとこに来たんだ?」
「陛下に対しては敬語使ってください…。えぇと、『モノになるのがいるかどうか見に来た』んだそうです。」
「へぇ……。」
「あ、私も陛下に褒めてもらえたんですよ? 卒業する時が楽しみだって。」
「へえ、よかったじゃないか。出世街道に乗ったかな? ……って、ミルはもともと成績よかったか……。」
「えへへ……。あ、ちなみに、薙お兄ちゃんにのされていた人たちは無条件で不合格だそうです……。」
 …………………………………ごめんな、今日オレの相手してくれてた人たち…。

 …………あ。
「忘れてた…………。」
「え? 何をですか?」
「道場でノビてる連中……。」
「あ…………」

 翌日、オレとジョシュアさんは詰め所に呼び出された。
「なんなんでしょう?」
「えーと、多分オレに関することですね……。」
「薙さんも呼び出されているということはそうでしょうね。何か心当たりはありますか?」
「はぁ、まあ……。」
 曖昧に返事をする。少しばかり後ろめたいことがあるのと、説明しきれる自信が無かったから…。
「あ、来ているようですな。」
 扉を開けて、いかにも役人といった風体の人が入ってきてオレとジョシュアさんに書類を渡す。
「えーと、御神楽薙殿。貴殿を百人隊長に任ずる。それに伴い保護観察処分も解除。」
「え、いきなりそんな立場ですか?」
「士官としては下から3番目です、気にしないように。個人の武力を重視する局地戦を行うにしては最大規模ですが。」
「えーと、要するに……薙さんが軍属に組み込まれるということですか?」
 状況を説明されていないジョシュアさんが質問する。
「そうなりますな。ちなみにジョシュア将軍。あなたは引き続き上司として御神楽殿の監督、指導をよろしくお願いいたします。」
「……何故ですか?薙さんが軍に入るなんて……。」
「彼自信が望んだことです。詳しくは彼に聞いてください。」
 一瞬ジョシュアさんが驚いた表情を浮かべてオレの方を向く。
 オレは曖昧な笑顔で応じた。
「では、私はこれにて。」
 そういってその男は出て行った。
 …………………………………………。
 沈黙が降りる。
「理由を……聞かせてもらえますか?」
 複雑な表情のままジョシュアさんが口を開く。
「役に立ちたかったんですよ……。ただ、それだけです。」
「死ぬかもしれないんですよ?」
「全部考えた上で決めたことです。大丈夫です。」
「ありがとうございます……。」
 ジョシュアさんは最後に複雑そうな笑顔を浮かべて、しかし確かにそう言った。



「あれ、薙さんの着任に必要な書類は全て私の方に入っていますね……? ではそちらには一体何が入っているのでしょうか。」
「……………………」
 オレは無言で書類袋をジョシュアさんに渡した……。この国の字は読めないから……。
 多分このときのオレはかなり情けない表情をしていると思う……。
「……薙さんにはまず語学の勉強からですね…。えーと、請求書ですか?『昨日の模擬戦で壊した棍が12本と、薙刀が1本。兜が31個に、道場の床の修繕費………。その他諸々、初任給から引かせて頂きます。よって今回の給料は無し』だそうです…………。」
「…………………………………………」
 ジョシュアさんは先程よりさらに複雑そうな笑顔でこちらを見た。
「き、昨日何をしていらしたかなんとなくわかりました。あまり、無茶はしすぎないようにしてくださいね…………。」

 給料のためだけに軍に入ったわけじゃないさ…………。
 そう思いながらも、何故か流れてくる涙をオレは拭った……。


添削、加筆ジョシュアさん。
添削ミルさん。

ありがとうございましたm(__)m


(2002.11.23)


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