父帰る

御神楽 薙

カルスケート攻略戦からフェルグリアの戦いまでの幕間……。

帝国軍 風神騎士団別働隊の陣にて

「さーて、あの馬鹿の顔を見んのも1年ぶりかぁ……。」
思わず顔がにやけるな……。さて、うちの馬鹿息子は、と。
ああ、いたいた、あの天幕だな…。この気配は間違いねぇ……。おあつらえ向きに一人か?
……いや、もう一人いるな…。それなりに使いそうな気配がもう一つ……。
どれ…ちょっと覗くか……。
おぉ、馬鹿息子発見。もう一人は、女か……。ふむ、装備をみたとこ、部隊指揮官ってとこか?
「はい、では……ように指示を……まだ…は怠らな……に……。」
「わかりました……………きます。ジョシュアさんも……。」
ん?あの娘がジョシュアってぇのか……。
…と、おぉ、出てきた出てきた…。
……………………久しぶりの親子の再会だ…ちょいとからかってやるか……。


……気配を殺して後をつけること数十秒。周りから人の気配がなくなる……。
「さて……、もういいだろう……出て来い。」
何?
「さっきからこそこそオレにつきまとってる奴だよ。ジョシュアさんじゃなくてオレに用があるってのも珍しいけど、とりあえず、姿を見せろ。」
ほほぅ……一丁前にオレの気配に気付きやがったか……。
多少は成長したようだな。……父としては喜ばしいことなんだが……。なんか気に入らん……。

「親の気配を忘れるとはなぁ……。」
そう言ってとりあえず姿を見せる。
「お、親父!?」
おぉ、いいリアクションと表情だ。予想通りすぎて逆に笑えるな。
「隙あり!!」
いきなり持っていた茣蓙と荒縄で薙を簀巻きにしてやる。
「な、何!? な、何すんだ親父!!」
いや、ただ単にお前が気付いたのが悔しくてな……。
しかし、現れたのが身内とはいえ、戦場でこうも簡単に気を乱すとはなぁ……。相変わらず甘い奴。
まぁ、説明すんのも面倒なんで、とりあえず猿轡をかませて黙らせる。
「さて、じゃあ行くか。」
簀巻きを担いでさっきの天幕までGOだ!



「最後に…。補給の状況もよし……。とりあえず、敵が動き出さない限りはこれで大丈夫ですね。」
…………ふむ、今ちょうど一人…。近くに人の気配も無し。チャンスだな。
「ちょいと失礼しますよ。ジョシュア将軍ですな?」
「!!!!」
ジョシュア嬢が素早く振り返り抜剣する。ほぉ、中々の反応速度、流石は帝国の将。
「あぁ、警戒しなさんな……、といってもこの状況下ではそりゃ無理か。」
「誰か……!!」
「っと。」
叫ばれると色々厄介なので、とりあえず口を塞ぎ、剣を弾き飛ばす。うーん、悪役っぽいのぉ……。
「あぁ、すんませんね。とりあえず、敵じゃあないですから叫ばんで下さい。その気になったらもう貴女を殺すなり攫うなりできる状況なのに何もせんでしょう?」
「……………………。」
……警戒心解いてくれん……。って当たり前か。
「あぁ、薙の野郎の父親なんですがね。ちょいと顔でも見ようかと寄っただけなんですわ。」
実際そんなことでわざわざこんなところまで来んが、少しは本当のことも混じってるし、いいや。
「……!」
お、少し反応アリ。OK.OK.話くらい聞いてもらえそうだな。手をどけるか。
「……本当に、薙さんの?」
「おう、御神楽 仁だ。」
「信じ……てみます。」
「なんか、歯切れ悪いが、こんな簡単に信じるのか…。」
「薙さんが言っていたイメージと合致しますから……。」
…………なるほど。

「で、薙さんですよね?」
「んぁ、あいつは後回し。とりあえず貴女にも聞きたいことがあるんでね。なに、ごく個人的なことだ。」
っつーか、実際のところ、こっちがメインだがな。
「はい? なんでしょう……」
ジョシュア嬢が首をかしげる。
「あんた、薙のことどう思ってる?」
「どうって、信頼できる副官、ですが……。」
…………予想通りの答えだな。
「男としては見てないってかい?」
「男性であることは承知していますが??」
……OK.OK.なんか、予想を通り越して期待通りの展開だ。流石は愚息。

引っ掻き回すこと、決定!

「なぁ、薙の野郎が貴女を一人の女性として愛しているって言ったら、どうする?」
一瞬、何を言われたかわからない顔をした後、驚いたような表情になる。
…………が、一瞬で表情を戻してしまう。
「……残念ですが、お答えできません。」
むぅ、残念。表情からは何も読めん……。こりゃ駄目か。まぁ、それも、あいつらしくっていいやな。 って!? 背後に殺気!?
「死ねぇ! この馬鹿親父がぁ!!」
「げふっ!!」
廻し蹴りを喰らって派手にすっ飛ぶ……。
広い天幕の中でツーバウンドしてようやく止まる。

うむ、ここはこのままやられたふりして狸寝入り決定だな……。この様子だと、起きたりしたら本気で意識が飛ぶまで殴られかねん。
って。あ、薙の野郎、縄で縛りはじめやがった!! ちくしょう! これじゃあ逃げにくいじゃねぇか!!

「な、薙さん?」
「は、はい!!」
お〜お〜、声がうわずっとる…。わざわざ会話が聞こえる場所に放置しといた甲斐があったな。
気絶したフリをしているため顔を向けられんが、薙の野郎、顔がゆでだこみたいになってるんだろうなぁ。
「……すみません、少し気分が優れませんので…先に休ませていただきます。」
「あ…………」
おぉ、振られたか?
ジョシュア嬢のほうは声の具合からしてうつむいている様子だな。
薙のほうは考えんでもわかる。どうせ気まずさを顔いっぱいに浮かべて困惑しとるんだろう。

〜数十秒後〜

「……親父、どうせ起きてるんだろ…。」
ちっ、ばれてたか……。
「んだよ、馬鹿息子。」
とりあえず、地面とキスをしている必要もなくなったので起きる。
「なんでこんなことをしやがった……?」
むぅ、久しぶりに怒っとるのぉ。オレが知っている範囲では5年ぶりくらいか。
「一年以上も惚れた相手に何も伝えられなかったんだろうが。親としちゃぁ流石に心配になるわ。」
これはまぁ7割くらいは本気。
…………残り3割は面白そうだから、なんだが、これは言わんほうがいいな。
「なな、な、なんで親父がそのことを知っている!?」
「風の噂だ。帝都では結構有名だったぞ?」
「な、お、オレはこのことは誰にも言ったことないぞ!? ……あ、まてよ? ミルには言ったか? けどちゃんと口止めはしたし……。」
「お前……なんでもストレートに顔に出るからなぁ……。多分お前があの嬢ちゃんに惚れてるってことを知らない人間はこの部隊にはいねぇぞ。」
ほんと、かわんねぇな、このガキは……。思わず嬉しくなっちまう。



「ところでよ。いいかげんこの縄解こうぜ?」
いや、実際結構痛えよ、この縄。
「馬鹿抜かせ。親父はこのまま帝都送還だよ。」
「あん? なんで。」
「一年間前の国境破り……。忘れたとは言わせん……。」
あぁ、そういや、そんなこともあったか。
「職務のためなら親をも売るか……オレは悲しいぞぉ。」
「知るか!!」

「でも、ま、ちゃんと減刑も頼んどいてやるからさ……。」

…………辛そうなツラしやがって……。

こいつなりに慣れもしねぇ軍人を頑張って務めてるってとこか……。
「そりゃどーも。」

とりあえず、こいつのためにも大人しく捕まっとくか。いざとなりゃあ逃げるけど……。
「まあ、それはそれとして、今晩くらい昔話に付き合えや。どうせ今すぐあの嬢ちゃんのところに行く度胸なんかねぇだろ?」
「……一言多いんだよ…。けど、ま、付き合うさ。」


「で……なんでここに?」
「さっきの噂を聞いてちっと気になってな…そんだけだ。」
「相変わらず動くのに理由なんてない、か。」
「そーゆーこった。」


ほんと、変わってねぇ……。別れる前となーんにも。
今日は久しぶりにいい夢が見れそうだぜ……。

<了>

(2002.11.29)


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