決戦前夜

御神楽 薙

カルスケート―ガイ・アヴェリ間防衛線付近の野営地

「強行突破……か」

既に日が沈みかけている空を見上げて呟く。

今回与えられた指令は国境の突破。
友軍が開ける防衛戦の穴を一気に突っ切り、敵を後方から撹乱すること……。
そして、モンレッドから突入してくる予定の帝国主力部隊の支援……。
機動力がウリの風神には最も適しているであろう任務……。

共和国首都−ガイ・アヴェリへの突入戦。
今回は久しぶりに大きな作戦になりそうだな……。
ここ最近の小競り合いとは訳が違う。
恐らく、2年前のカルスケート以上の激戦になるだろう……。

「あれ? 薙さんじゃないですか。どーしたんですか、難しい顔しちゃって。」

傍を通りかかった伝令兵が話し掛けてくる。

「ん? あぁ……ちょっと、今回の作戦のことをな………。」
「…………流石に、不安ですか?」
「……ん、まぁ、少し…な……。」

戦いが大きくなればなるだけ、個人の武力など役に立たなくなる。
今度の戦いで、ジョシュアさんを守りきることが出来るかどうか……。

「はぁ……。薙さん…。あなた仮にもこの部隊の副官でしょうが……。上の不安ってのは士気にダイレクトに影響するんですから、もうちょいしっかりして下さい……。」
「……あぁ、そうだな…。……すまん。」
「ま、それができない位不器用だってことは、部隊みんながわかってることですけどね…。」

……をぃ…。なんだそれは……(汗。

「ほら、今だってばっちり顔に出てる……。どーせ、『なんだそれは』とか思ってるんでしょう。」

…………くそぅ…。マジで考え読まれてるのか…。

「……で、いいんですか?」
「何が?」
「いや、今夜のうちに、ジョシュア将軍に何も言わなくていいのかなぁ…と。……って痛!! 何で殴るんスか!?」
「…………別に……。」

思いっきりニヤけた顔で聞いてきたから……。腹たったんだよ!! 悪いか!?

「薙さん、マジで何も言わない気ですか?」

別の兵士が会話に参加してくる。

「おぃおぃ、そりゃないでしょう……。大将……あんた、こんな美味しいシチュエーションほっとくんですかぃ?」

また、別の兵士……。って美味しいシチュエーションってなんだよ!?

「お、おい…。一応オレはジョシュアさんに、言うことは言ったぞ?」
「2年前のアレですか?」
「あの時の薙さん、とりあえず気持ちは伝えてたけど、どう返答されてたっけ?」
「確か…『その言葉、そのお気持ち…確かに受け取りました。薙さんの気持ち全てに答えられることはできませんが、本当に嬉しく思います。……ありがとう、ございます』…だったな。」
「でも、その前に薙さんが吐いたセリフが…『オレの気持ちは今伝えたとおりです…。多分、オレはまだ男としてみてもらえて無いと思います…。だから、返事はまだ要りません…。ただ、こんなオレでも、まだ傍であなたを助けていきたい。…それは、許してもらえるでしょうか?』…だったよな?」
「あやふやだよなぁ……。で、それから2年も経つのに、それ以上のアプローチはしていない……と。」
「……薙さん、告白のセリフといい、それからの行動のなさとい……。あんた本当に男ですか…………。」

「ほっといてくれ〜〜(T□T)。いいじゃないかよ、オレの問題だろ〜が!!」

いつの間にか、わらわらと集まってきた連中が代わる代わる言ってくる…。
こいつら、なんで2年前オレがした告白の内容なんて覚えてやがるんだ!?
そりゃ、開戦してからずっと再編成はしていないから、みんな2年前のことも知ってるかもしれないけど……。例え知ってても2年もすれば忘れるだろ!?
っつーか、あの時覗かれてたのか!?

「いや、実際問題、これが最後になるかもしれないんですよ? 未練なんか残したかないでしょう。」

突然一人が真剣な表情になって言う。

「…………。」

思わず言葉が詰まる…。
オレも考えていたこと……。考えた上で、飲み込んでいたこと……。

「実際、生き残る目標を持ってたほうがいいっていいますぜ……。」
「そーですよ。やれることは全部やっときましょう!!」

そ、そういうものなのか……?



―数分経過―



「よし……。じゃ、行ってくる……。お前ら、今度は覗くなよ!?」
「薙さん、がんばれ〜。」

よし……とりあえず、当たって砕けろだ!

――以後の兵士たちの会話――

「ほんと…薙さんって、単純だよな〜。」
「あぁ、まさかこうも簡単に説得できるとはなぁ……。」
「でも振られでもしたら、それこそ明日から使い物にならなくなるんじゃないか?」
「あぁ、それはそれで吹っ切るだろ……。悩んでさえなけりゃ、あの人は大丈夫だよ。」
「やっぱ薙さんはいつも通りじゃないとな、それこそ士気に響く。」
「まぁ、2年前の時はジョシュア将軍も顔真っ赤にしてたし、まったく脈がないわけでもないだろう。」

――再び薙の視点へ――

さて、天幕の前まで来たが……。どうしよう……。
ここまで勢いで来たから気の効いた文句なんて考えてないし……。
う〜……どうするか……。

「……薙さん、何やってるんですか?」 「いや、ちょっと考え事を…………。………って…ジョシュアさん!? な、なんで!?」
「なんで…と言われましても、ここは私の天幕ですし……。前を熊のようにウロウロされたら気になりますよ……。」

ぐぁ……そうだった、アホかオレは……(汗
ジョシュアさんの笑顔も少し引きつり気味だ。
……………………ムードもへったくれもないな……。このまま帰ろうか…(泣
……いや、もう時間もない……。
こうなったら腹くくろう!!

「あ、あの、ジョシュアさん……。明日からのまた大きな作戦が始まりますよね……。」
「はい、今度の戦いで…………今度こそ決着が付けばいいのですが……。」
「ええ……。それで、また明日から、こんな風にのんびりと話が出来る状況じゃなくなると思ったんで……。」
「……そうですね…。」

さぁ、ここからだ……。一気にいくぞ!!

「こんな土壇場ですが…いや、だからこそ言います…オレは、貴女と一緒になりたい……。何があっても一生守り抜いて見せます……。だ、だから、その……。」

あ、やばい……、セリフが思いつかん……(汗。
えーい、一生に一度の土壇場でくらい働いてくれ、オレの右脳よ!!(泣

「ありがとうございます…でも、その言葉はまた今度にしてください。そうした言葉は聴けば聴くほど、今は胸が痛くなります…。」

あ……。

やっぱり駄目だ…………。オレは、この人のこんな表情は見たくない……。

たとえ未練が残っても、これ以上は言いたくない……。

「……すみません、大きな作戦を前にして少し焦ったようです……。じゃあ、生きて還ったときにまた、改めて……。今は……忘れてください……」

あ、違う。このセリフだと覚えていてくれって言ってるのと同じじゃないか!?
いかん、早く訂正を…………(汗。

「申し訳ありません。今はこの戦いを早く終わらせ、人々を悲しみから解放したいです……。もう何万人もの兵士達が命を落としました。そんな中で幸せになろうとはとても考えられないんです。」

……………………………………。
終わらせる…………。可能な限り早く……。
オレ一人の力でどうこうできる訳はないけど……。少しでも……力に……。

「お休みなさい……。」

最後に一言だけ呟いて、オレはジョシュアさんの天幕を後にした。

より強くなった決意を胸に秘め……。

(2002.12.01)


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