一つの恋の終わり
白峰渚&ルーデル
帝国と共和国、双方の意地を賭けたノスティーライナの戦い。
その激戦のさなか……一本の矢が、一つの恋に終止符を打った。
帝国の勇将、白峰渚……。その胸に突き刺さった流れ矢が。
教会を接収して設置された野戦病院の一角に、ガレスの怒号が轟く。
しかし、その声はどこか悲しく、そして空しいものであった。
「何とかしろ! …てめぇら、それが仕事だろうが!」
胸倉を掴んで締め上げるガレスに、衛生兵が必死の抵抗を試みる。
「傷が…深すぎます…今までもっているのが、不思議なくらいですよ!」
「そこを何とかするのがてめぇらの仕事だろうが…! 渚にもしもの事があったら、
てめぇらまとめて首を捻じ切ってやるぞ…!」
怒りに任せて衛生兵の首を締め上げるガレスに、弱々しい声がかかる。
「…ガレス、暴れちゃ駄目だ。」
その言葉を聞くと同時にガレスは衛生兵を放り出し、渚のもとに駆け寄った。
「…渚、話して大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫…。ルーデル君が来るまで、死ねないよ…。」
「あのクソガキが? …来るものか。もう戦死してるかも知れんぞ?」
「…きっと来る。…だから、ルーデル君が来ても手を出しちゃ駄目だぞ?」
「…卑怯だぜ、死ぬ間際の願い事なんて断れるかよ…」
その時二人の耳元に、軍馬の嘶きと扉が開け放たれる音が届いた。
「…ほら、来たみたいだ…。」
病室の扉を押し開け、ルーデルが渚の元に駆け寄る。
血と泥に汚れたその姿を見、渚は悪戯っぽい笑みを浮かべてこう言った。
「…ごめん、ルーデル君。私はどうやらここまでみたいだ。
君は、私が見てないと駄目な人だからな……心配だよ…
ああ…蛍…ごめん、約束、守れないね……」
「…………(すまない、渚……。
俺は……俺は、一度もお前を守ってやれなかった……)」
目を閉じて固く唇を噛み……ルーデルは渚の手を握りしめた。
頬を熱いものが伝い、床に透明な雫が落ちる。
自分が泣いていることにルーデルは気づいたが、涙を拭こうとは思わなかった。
渚の手から力が抜け、その温もりが次第に失われていっても、
ルーデルはそのまま動かなかった。
そのまま、ずっと……。
「…簡単に私のところへ来ちゃ駄目だよ?
そうだな…100年くらいたったら…来ても…いいか…な…」
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