眠れる獅子
ネル&ルドルフ
「くっ、なんて厳重な警備なんだっ!一貴族にしては警備兵の数が半端じゃないっ」
暗殺者は焦りを隠せなかった。ここは中堅貴族「ゲーレン家」の屋敷、数々の不穏な動きのあるこの家の主「ルドルフ・フォン・ゲーレン」の暗殺を命じられて邸内に潜入したのだ。ルドルフ邸私兵が目を光らせる中腕利きの暗殺者はターゲットを発見する。
「あれが…ターゲットか」
庭の草木に身体を隠し屋敷の廊下を歩くルドルフの姿を窓越しに確認し、剣を抜き息を殺しながら隙を伺った。
「ふん、月が綺麗だな…」
「そうですね、今宵は美しい満月です。」
廊下を進むルドルフの横にブロンドの女性が並ぶようにして歩いている。名前は「ネル・ハミルトン」と言う。現在帝国第三騎士団「エーベル・リッター」に所属する女兵士であり、ルドルフとは主従関係を結んでいるのである。
「そう言えばルドルフ様、また孤児院に寄付されたそうですね。」
ネルが嬉しそうにルドルフに話し掛ける。
「ん? ああ…金は困っている者が使うのがいいからな…」
満月を見続けるルドルフ、上の空と言ったような感じの無気力な返事を返す。
「ルドルフ様…」
何を考えているのかわからないがそれを詮索しようとは思わなかった。
「ちっ…女が一人いるな…まぁいい、酷だが顔を見られる訳にはいかん…一緒にしんでもらうか…」
庭の草木から身を翻し一気に窓の方へと駆け抜ける。
「!!! ルドルフ様っ!」
庭の影から暗闇に紛れ接近する侵入者にいち早く気付いたネルが普段から腰に下げているサーベルを抜きルドルフの前に出る。
「ちっ、感づかれたかっ!」
侵入者がジャンプしガラス窓をを蹴破りそのままルドルフに斬りかかる。それを阻むようにネルが侵入者の前に立ちふさがる。
勝負は一瞬だった。ネルのサーベルが侵入者の剣を弾き飛ばしそしてルドルフが所持していた短剣が侵入者の喉元を捉えた。侵入者はものを言わぬ人形と化し、そのまま崩れ落ちた。
「ふん…愚かなヤツだ…しかしいつもの事ながら警備兵がだらしないな…」
「ルドルフ様………」
死体を見下ろしながら不満げそうにブツブツと呟くルドルフ、それを悲しそうな表情でネルは横顔を見つめる。
「………(さて、何処の刺客なのか…調べさせるか…)」
死体をそのまま置き去りにするように無言で廊下を歩きだすルドルフ、ネルも仕方無しにその背中を追いかけることにした…
後日帝国で有力であった貴族の主が謎の変死を遂げる事となる…ルドルフはその報を聞いて静かに笑みを浮かべた。
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