優しき羽
ネル&ルドルフ
「あ………。」
ここは帝都の中にある公園、池のほとりを散策していたネルのまえに小さな鳥の雛が弱々しく鳴いていた。
雛を手にとり頭上を見上げると鳥の巣があり、数匹の雛と親鳥が悲しそうに鳴いている。
女性である自分に上れる高さではなさそうだし、足を掛ける梯子も見当たらない。
「………?」
散歩中のナハトが見たのはそんな光景だった。
ふらふらとその場所へと歩み寄る。
振り返ってみれば何故ここで歩み寄ったのか…それは興味本位だけではなかったのかもしれない。
〜 優しき羽 〜
「あら…ナハトさん。」
雛を手の中で大事そうに抱えながらナハトに会釈をする。
ナハトは無言のまま一度手を上げてみせる。
「その雛は上の巣からおちてきたんだな?」
ナハトは頭上の巣を見ながらネルに問い掛けた。
ネルはこくこくと悲しそうな目で何度も頷く、手の中の雛をナハトは興味がなさそうな顔で見下ろす。
「そうだ!」
何かをひらめいたように一声だすといきなりネルがガチャガチャと急ぎながら鎧を取り外しはじめた。
「お、おい!?」
「ナハトさん、私を肩車してください、そうすれば巣まで届きます!」
樹の高さを確認するナハト、確かに二人分の身長を足せば巣までは何とか届きそうではあるが…
「何で俺がそんな事をしなくてはいけないんだ…」
深い溜息をつくナハトにムッとした表情を向けるネル、一瞬鎧を外す動きが止まる。
「じゃあ私がナハトさんを担ぎましょうか?私は構いませんけど。」
ナハトは仕方ないといった表情でまた溜息をつき鎧を外し終えたネルを肩車する。
乗せられる方のネルがロングスカートをはいている為下のナハトは前が見えない、上のネルが指示をだす。
「もう少し前ですー…っと…行き過ぎました。」
「おい………」
結局暫くの間肩車が続いてしまう、ネルがいくら軽いとは言え長時間担がされると肩や腰が痛くなってくる。
ようやくネルの手が巣に届き雛をもどすことができた。
「ええと…私のわがままで…ごめんなさい。」
こきこきと肩や首を鳴らすナハトにネルが頭を下げる。
「気にするな………しかし、何故お前はあの鳥を助け………」
何故助けようと思ったのか?ナハトはそう聞きたかったのだが、ナハトが言い切る前に…
「命を救うって良いことですよね、しかも私たち二人が力を合わせなければ出来ない事だったんですから…。」
ナハトに背中を向けながら言った。
「力をあわせれば…いろんな事ができるのに…どうして手を取り合おうとしないんでしょうね…」
『「月の塔を敵に回すつもりですか!?」』
『「今は、事を荒立てはしない。特に各地での戦いが激化している今は…」』
ネルは昨日のルドルフとの会話を思い出しながら小さな声で言った。
ナハトは静かに聞いていた。
「あ………もうすぐ第三騎士団の会議が………それでは失礼しますね!」
ネルは一度深くお辞儀をすると足早にその場を後にした。
ナハトはその姿を見送ると頭上の鳥の巣を見上げると、親鳥が雛に餌を与えていた。
もちろんあの雛も幸せそうに口を大きく開けている。
「もう落ちるなよ」
一言言ってからまた散策を始めるのであった。
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