物思い《「名」に賭けた誓い》
パンドラ
―――――1253年シチル 「聖蓮2」野営地―――――
パンドラは草原の上に横になって空を見ていた。
空を眺めながら考えに耽る。
これまでの事、これからの事、考える事は幾らでもあった。
身体の問題は深刻だった。
全盛期と比較するまでもなく、弱りきっていた。
正面から闘う事は可能でも、暗兵関連の技能はほぼ使えなかった。
次にこの戦争について考え、・・・・・・・・・頭痛を起こした。
多くの兵士が死んでいくだろう、覚悟はしていたが辛いだろう。
戦争とはいえ、死なないに越した事はないだろう。
配下の兵士達への責任を考え、自分の指揮能力の低さに呆れた。
大勢の配下を率いて闘う必要など今までは無かった。
仕方ないので、自分なりの「より闘わずにすむ方法」を考えてみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結局、得意な潜入と単独突撃に偏った。
「目標は・・・・・・・・・・・・・・(-_-;)・・・・・・・・やっぱり皇帝陛下かな」
頭を狙うのは奇襲や特攻の基本だろう。
が、皇帝は警護もキツイだろう。次に思い浮かんだのは、・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・リルルさんを・・・・・・・捕まえられるといいけど」
「暁の守人」8代目司令官・・・・・・・・・・・・・・・・リルル・・・・・・・・・・
彼女は今、近くにいる。戦地故、警護もそれ程では無い筈なので、
潜入と捕獲後の逃走経路の確保さえ出来れば・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、・・・・・・・・・・・・・この身体じゃねぇ」
ふと、身体の不調を思い出す。現状では、捕獲すら不可能だろう。
やはり、単独で解決を狙うのは無理だろう。
彼女を捕らえるには彼女の所属部隊を叩くしかないだろう。
しかし、クレアの兵士が「暁の守人」を前にして捕縛を選ぶか・・・・
頭が痛い、自分も影で動かなくてはならないだろう。
捕縛に成功したとしても、即刻処刑の可能性もある。
一応将軍だが、成り上がり者の旅人である自分にそれを防げるか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また、頭痛が酷くなってきたので考えるのを一旦うち切る。
まあ、やれるやれない以前にやるしか無い。私が「私」ならば・・・・
頭が落ち着いてきたので、リルルさんの事を考えてみる。
「暁の守人」になるべくして育てられた存在・・・・・・・・・・
それ以外の生き方を知らずに育てられた。不自然な存在、
不自然な事自体は、ある意味珍しくない。人為的なら尚更。
彼女が殺すのは、いい・・・・・・・・・・・殺さない方が良いが。
嬉々として殺すのや命じられるままに殺すのは、いい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういう人種も多い。
自分や周りを命を含めて駒として考えるのは、いい。
・・・・・・・・・戦術に長けようとすればその考え方もアリだ。
生き方を決められて育てられたのは、認めたくないがいい。
・・・・・・・・・・・・・・・・決めた側を好きにはなれないだろうが。
だが、彼女が道を選んでいない様に見えるのは、
・・・・・・・・・・・・・・・私の錯覚なのだろうか。
彼女にはその道しかなかったが、今はどうなのだろうか。
ただ、漠然とそのまま今に至っているだけでは無いのか。
ふと、過去を思い出す。
貫くべき意志を見いだせなかった頃の自分。
支配され、人形として操られてしまった自分。
ただ眠る場所を求めて旅をしていた時の自分。
「嘆く」事しか出来ぬから・・・・・・・・・・そこから
抜け出そうとしなかった弱い自分。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女はどうなのだろうか?
他の道がある事に気づけないのだろうか?
気づけないとしても歩むのを止める事は出来る筈。
・・・・・・・・・・・・・・・・・結局、今のままでは分からない。
ならば、彼女を解き放とう。
他の道を、他の生き方の存在を示し、
気付いていなかった事を気付かせよう。
その上で選ばせよう、彼女自身に彼女自身の道を。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・本人にとっては迷惑だろうが、
「私」ならやるしか無いだろう。勝手に決意を固める。
「私の忌まわしき名ともう一つの〔名〕に賭けて、・・・・・
彼女に・・・・・・・・・・・・・・・・・選ばせて見せよう」
取りあえずそれが今の最優先だろう。
私が「私」であることが一番私に必要なのだから。
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