敗戦SS「悔恨(仮)」

語り手エリー

こうなる事は当然だったのだろう。
しかし、私は進軍した。自分一人の問題ではないと知りながら
その結果がこれだった。


パンドラはクレアにいた。
ルーンでの部隊壊滅後、自分の足で帰ってきた。
怪我が酷く、「負傷者」扱いで静養を言い渡されていた。
だが、とても大人しくはしていられなかった。

自分の作戦に最後まで付き合ったが為に命を落とした者達と
何より丙さんのことが気にかかっていた。

「(確か。帝国兵に捕らえられていた。)」
思考が激しい怒りに染まる。それを知りながら帰ってきた自分。
何故、何もしなかったのか。

助けようとしても力が足りなかった。
その答えが浮かんだ時、理性が飛びかけているのを自覚した。
「力」が足りない。
何の為の私なのか、
肝心な時に力が足りないと諦めてしまうのでは意味がない。
力を得ようとしたあの日、
力が足りなくとも戦い、求め続けた日々、
その初心に立ち返れたばかりではなかったのか?
なのに何故、あそこで助けにいかなかった。

パンドラの思考は加速していく。
だが、出てくるのは自分の不甲斐なさと弱さだけ。
自分を責めても意味がないと知っても、それしか出来なかった。


どれ位時間がったたのか、
無意識のうちに暴れかけたパンドラによって部屋は荒らされていた。
さすがに本能的に物を壊したりはしていないが散々たる有様だった。

ふと、一つの荷物が目に付く。
愛用の医療器具だ。さっき暴れた時に袋が開いたらしく中身が見えている。
メス(の様な物)が見えた。
袋に近い左手を伸ばし手メスを掴む。
そのまま目の前まで持ってきて眺め、唐突に右手首を斬りつけた。

血が噴く。痛みはさほど感じない。
心が麻痺しているのか。

何故かその行為が酷く甘美な物に見えた。
吹き出し続ける血を舐める。
懐かしい血の味、養分のたっぷり含まれた血、だが上手くはなかった。
当然だろう。今の自分の血など上手いはずがない。


それから数十分。
パンドラは機械的に動いていた。
右腕にメスを突き立て、捻り、軽くえぐり、血を噴き出させて
暫くするとメスを抜き、静止した後でまた突き立てる。
その動作を異常にゆっくりと繰り返していた。

様子を見に来た兵に制止され、メスを取り上げられてやっと止まる。


「やはり泣けないか」
右腕は重傷と呼ばれる状態だった。
だが、正直どうでも良かった。
自分が心の痛みに耐えきれず肉体を痛めつけたか、自分を罰したくてやったのだろう。
どちらかは良く分からないが、珍しい行動ではない。
昔、こんな状態になった事が何度もあった。
「こんな時にも泣けないのは、やはり道化だと言う事か」
パンドラは泣けない。
眼球を保護する涙や嬉し涙は流せる。
だが、悲しい時に泣く事は出来ない。そういう体質になっている。
だから、代わりに・・・・・・・・
「結局これか・・・・・今の状況には合っているかな」
パンドラの左目から血が流れ出した。
両目とも眼球近くがかなり傷つき易く、容易く出血する。

「丙さん・・・・・・・・・、どうか無事に」
パンドラはただそれだけを願い続けた。
願うことしかできないのは苦痛だったがそんな事は言ってられない。

ただ、もう一度会いたかった。
謝りたかった。伝えたい事があった。

(2002.10.07)


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