月光
水薙 雷夏
ハルバートからシチルへと続く山間の平原に梟の鳴く声が聞こえる。
梟の鳴き声の交響曲を耳にしながら1万以上の兵達が野営を張っている。
これら1万余の軍団全てがラグライナ帝国軍のものだ。
一方、クレアムーン軍もこれとほぼ同数の軍が展開されている。
山間の平原に梟の鳴き声が静かに響く・・・。
ラグライナ軍の後方にて息を潜めて展開されている闇に融け込むかのような1隊。
―――ラグライナ帝国最大の諜報組織「暁の守人」暗部(暗殺部隊)の一つ「月詠」―――
その月詠の指揮官である水薙雷夏は夜空を見上げていた。
暗闇を彩るような満天の星と地上を優しく照らす月。
何を思っている訳ではない・・・唯、夜空を見上げているだけ・・・。
何を見ている訳ではない・・・そう、まるで白痴のように見上げているだけ・・・。
人を殺める仕事を始める時・・・彼は夜空を見上げる。
それに大した意味ははない・・・唯、其処にあるというだけ・・・。
まるで彫像のように、只佇んでいる・・・。
体を覆う闇色の装束には綻びどころか埃一つなく、唯一闇色でない物は
腰の小太刀の拵えと口元を隠す真紅のマフラー・・・そして彼自身の肌。
その肌には傷一つどころか痣一つすらない・・・。
恐らくは、あったとしても修練の時についたモノのみ・・・。
風が静かにあたりをそよぐ。そよいだ風と共に草が揺れる。
満天の星と優しく照らす月を湛えた夜空も、何処までも広がるような
錯覚すら思わせる山間の平原も・・・只、静謐を保っている。
其処にいる人影がまるで存在しないかのように・・・・・・。
水薙雷夏は夜空を見上げていた。
暗闇を彩るような満天の星と地上を優しく照らす月。
何を思っている訳ではない・・・唯、夜空を見上げているだけ・・・。
何を見ている訳ではない・・・そう、まるで白痴のように見上げているだけ・・・。
人を殺める仕事を終えた時・・・彼は夜空を見上げる。
それに大した意味ははない・・・唯、其処にあるというだけ・・・。
まるで彫像のように、只佇んでいる・・・。
闇色の装束を纏った体には傷どころか痣一つなく、唯一闇色でない物は
腰の小太刀の拵えと口元を隠す真紅のマフラー・・・そして彼自身の肌。
闇色の装束を彩る紅は全て標的と障害を殺めた時の返り血。
恐らくは、その返り血すらも闇色を彩る事がない時も・・・。
彼のその姿を見た者がいるならば・・・。
その者は何を思うのだろうか・・・。
恐らくは―――――――――。
空が白んで、東の方から眩いばかりの茜色の日が昇る。
闇色から茜色を経て青色に移る空も、何処までも広がるような
錯覚すら思わせる山間の平原も・・・只、静謐を保っている。
其処にいた人影がまるで存在しなかったかのように・・・・・・。
何時の間にか、山間の平原の人影は姿を消していた―――。
――――――開戦は近い。
|