第二夜(前夜)
結城 紗耶
その日、紗耶の父は悩んでいた。
結城の家系は代々「荒神を静める」家系である。
結城家に生まれた女子は、荒神を静めるべく生まれ、荒神にその身を捧げ、一生を閉じるのである。
言わば『荒神を静める為の生贄』である。
その為、俗世とは隔離し、『光明巫女』と呼ばれる荒神を静める力を持つ巫女となる為に、修行を積む。
紗耶の母もまた光明巫女として、17の時に紗耶の父と契りを結び、18の時に身を捧げた。
そして時の経つのは早いもので、紗耶も今年で17となった。
身を捧げる秒読み段階と言える。
だが、いまだに紗耶には告げてはいない。
もし告げたとして、それでも紗耶は拒むことなく受け入れるだろう。
紗耶はそう言う娘だ。
紗耶の父は大きく悩んでいた。
「自分に力があれば、荒神を倒す事も出来るだろう・・・しかし」
自分の力の無さを大いに悔やんでいた。
紗耶の父は、有数の法力の持ち主でもある。
しかし、その力を持ってしても荒神には勝てないのである。
一度(ひとたび)荒神の気を害すれば・・・想像の範疇を大きく超える。
「あれも私の一人娘、何よりあいつのたった一人の忘れ形見だ。
せめて儀の前に普通の娘としての生活もさせてやりたいものだ」
そうした想いが紗耶をクレアへと向かわせる切っ掛けとなっていた。
幸い、紗耶の父とクレアの主「月風 麻耶」の父親とは、知らない仲ではなかった。
そう言った理由を説明すると「月風 麻耶」は、快く紗耶を引き受けてくれたのである。
「荒神を倒せる人物がいるやもしれぬ・・・」
父としての子への想いと、結城の家系への終止符の為、紗耶をクレアへ向かわせる決心を決めた父であった。
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