第五夜
結城 紗耶
帝国軍の侵攻に備え、クレア軍はクレアムーン南にある『シチルの街』
そして、東に位置する『港町リュッカ』に陣を敷き、これを迎え撃っていた。
クレアムーン第二部隊『蒼風』は、シチルの街に程近い位置で陣営を整えていた。
いまだ実際に戦闘が無いとは言え、出陣した以上いつかは戦場となり戦闘となるのである。
時が経つにつれ、紗耶の心の不安は大きくなるばかりで、それを少しでも紛らわせようと、
様々な事を試みていたが、どれもさして効果の得られるものではなかった。
紗耶「エアードさんが勝つ・・・エアードさんが負ける・・・」
エアード「・・・まだやってたのか(==;」
紗耶「・・・97回目です」
エアード「・・・なぁ紗耶、そんなに俺のことが信用出来ないか?」
エアードは大きな溜息を1つつくと、そう言い放った。
紗耶「そんなことありません。エアードさんは強い人ですし・・・とても頼りになりますし・・・信用しています」
エアード「だったら、そんな占いなんかする必要ないだろ(−−;」
紗耶「わかっています・・・わかっているんです・・・」
エアード「心配するな、俺が守ってやるから」
誰かを守りながら戦場に立てるはずはない。
戦場では、敵を倒すため、自分を守るために必死なのである。
誰かを守りながら戦場に立てば、自ずと死へと近づくだけである。
それでもエアードの言った『守る』の言葉に嘘はないだろう。
紗耶にも、それは良く判っていた。
紗耶「いえ、戦場に立つ以上エアードさんに迷惑を掛けたくありません・・・
敵と戦う事も、死ぬ事も、私自身の運命であれば、どのような事にも耐えられるでしょう・・・」
紗耶の占いは、クレアの明暗でも無ければ、自身の事でも無い。
エアード、ただ個人に対する占いなのである。
俯く紗耶に対して、暫くの重い沈黙を払いのけたのはエアードであった。
エアード「・・・1つだけだぞ」
紗耶「え?」
エアード「だから1つだけだ。お前の不安が取り除ける方法を1つだけ言ってみろ」
エアードは、まるで駄々をこねる子供の要求に折れた親のように、大きく溜息をついて答えた。
紗耶「・・・エアードさんを・・・感じていたいです・・・エアードさんが、ここにいると感じていたいです」
エアード「・・・わかった」
クレア第二部隊『蒼風』と帝国部隊の衝突前夜、陣営でエアードと紗耶の姿を見た者はいなかった。
翌朝、眠る紗耶を抱えながら、エアードは陣営に戻ったと言う。
それを見た兵士は言う、「その寝顔は、とても幸せに満ち足りていた」と・・・
『エアードさん・・・御武運をお祈りしております・・・どうか、ご無事で・・・』
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