第六夜

結城 紗耶

エアード隊がシチル戦で壊滅し、一夜が過ぎた。
壊滅後に行方不明となっていた紗耶は、帝国軍によって捕まり、そして帝国軍によって
クレアまで送り返されたが、疲労の為か着くなり崩れるように倒れ、
クレア聖都にある病院へと運ばれていた。
紗耶は特別とは言わないが、医師の判断で精神的な面に心配があるかもしれないと言う事で、
一人部屋に運ばれていた。

・・・コンコン

ノックの後、紗耶の返事が早いか相手が扉を開くのが早いか、ほぼ同時とも言えた。

  紗耶「あ・・・エアードさん」
エアード「よう、どうだ?調子の方は」
  紗耶「はい、一晩休んだら楽になりました」
エアード「そうか・・・」
  紗耶「・・・」

2人の間に暫しの沈黙が訪れ、どちらも話し掛ける言葉を探していた。

エアード「・・・ちょっと表にでないか? 良い天気だぞ」
  紗耶「あ、はい・・・あれ?」
エアード「大丈夫か?」
  紗耶「はい、平気です」

病院と言うのは、病人のみならず、どうしても気持ちが後ろ向きになり易い場所である。
少しでも、その雰囲気を変えようと言うエアードの心遣いであった。
部屋の空気の重さから、紗耶もその事を感じ取り、身体を起そうとしたが、
丸一日横になっていた為に、少々バランスを崩した。



その後、エアードと紗耶は、病院から少しばかり離れた場所にある、小高い丘へと来ていた。
そこからは、町並みが良く見え、陽の光を浴びたクレアの町並みは、まさに聖都と言うに相応しく思わせる。

  紗耶「綺麗な・・・場所ですね」
エアード「あぁ、仕事を抜け出して釣りに行こうとした時に、たまたま見つけた場所なんだ」
  紗耶「・・・」
エアード「・・・」

ここでもやはり、重い沈黙が訪れ、僅かな風が2人の髪をなびかせ、小鳥の囀りだけが2人の耳に届く。

エアード「その、なんだ。ごめんな」
  紗耶「何が・・・ですか?」
エアード「いやだから、守ってやることが出来なくて」
  紗耶「エアードさんのせいではありません。あまり気になさらないでください」

エアードは紗耶の事を、出来る限り戦場で守っていた。
帝国の敵将との一騎討ちをしている最中でさえ、常に紗耶を守りながら戦っていたのである。
そんなエアードの「守る」と言う言葉に、嘘偽りがないことを紗耶は十分に理解していた。
結果、壊滅直前にエアードの馬に敵兵の矢が当り、紗耶は落馬する状況となったのである。

エアード「償えるとは思っていないが、何か俺にしてほしい事はあるか?」
  紗耶「この戦争で、エアードさんがご無事なら、それだけで十分です」
エアード「いや、それじゃ俺の気が納まらないんだ」
  紗耶「そうですか・・・では、この間の答えを聞かせてください」
エアード「この間の答え?」

紗耶は少々エアードをからかうような、悪戯な笑みを浮かべながら答えた。

  紗耶「私の事を嫌いですか? 愛していますか?(微笑)」
エアード「それか(==;」
  紗耶「それです」

答えを待つ紗耶と、暫くの沈黙を続けるエアード。
そしてエアードの口が開かれた。

エアード「勿論、お前の事は嫌いじゃない。 
      だが、前にも言ったが俺は半年前に大切な人を亡くしたばかりなんだ。
      だから今は、その言葉を言うことが出来ないんだ。
      もし、俺が彼女の事にケジメをつける事が出来たなら、
      その時は判らない・・・これじゃ駄目か?」

  紗耶「駄目じゃないです。エアードさんの気持ちは良く判ります。
      エアードさんの、その言葉だけで私は十分です」


その後、二人は言葉を交わさずに、ずっとクレアの町並みと流れる雲を見つめていた。
陽も沈みかけ、夕焼けが辺りの景色と2人を包み始めていた。

あの風はエアード、そして後を追うように流れる雲は紗耶・・・
あの雲のように、いつまでもエアードの後を追い続けられたら、どんなに幸せなのだろう・・・
紗耶は、そんな事を考えていた。

エアード「・・・紗耶」
  紗耶「・・・はい」

2人はそよぐ風と月の灯を僅かに浴びながら、互いの温もりを感じていた。



2人が病院に戻ったのは、すでに夜も更けた頃だったと言うのは、2人を見かけた兵士の話である。

(2002.09.25)


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