運命の日
セグトラ
夜も更け、街が寝静まった頃…セグトラは一人の男と対峙していた…。
共和国評議委員長…ラヴェリア。
酒場での一件の後、また客を減らしたと嘆くマスターを励まし(多めに代金を払い)帰途についたのだが…
その途中、突如現れた男たちに拉致され、この場に連れてこられたのだった…。
「手荒な歓迎でどこに連れて行かれるのかと思いましたが…ラヴェリア様でしたか」
少し皮肉をこめながら、セグトラは彼の側へと歩みを進めた。
「申し訳ない。が、今回はあなたにとっていい話を持ってきたつもりですよ」
ラヴェリアはセグトラの方へ向き直り、視線を交しながら言った。
「いい話…ですか?」
「ええ…セグトラさん。あなたに評議会に入っていただきたい。」
サラリと言い放つ。
共和国に住む物にとってその言葉の意味する事は、恐ろしく重大な事である…共和国政治の全てを担う機関への勧誘…。
それもその機関の最高権力者直々の…である。
もちろん評議委員の選出は選挙によって行われる為、ラヴェリアの独断でセグトラを評議委員にする事は出来ない…。
彼の言葉の意味する事はラヴェリアが後ろ楯となって後押しをするという意味だ。
といっても、ラヴェリアの後押しがあればセグトラの当選は確実だろう…彼の国民人気は圧倒的なものがあるのだ。
そんな…一般の共和国民にとっては夢のような話…だが…
「何かと思えばまたその話ですか…。以前にもお断りしたはずですが?」
声にありありと失望をにじませながらあっさりと言う…その話はセグトラにとって興味すらわかない物でしかないのだ。
失礼しますと一言のこしその場を去ろうとする…が、扉に手をかけて気付く。…鍵がかかっている。
振り返り鍵を要求しようとしたセグトラに唐突に声がかけられる。
「そういえば…お兄様方が亡くなられたとか。お悔やみ申し上げます。」
それは、現在のセグトラにとって最も触れられたくない話題である…渋面になり黙る。
その様子見て、満足げにラヴェリアは続ける。
「やはりあなたにとってはありがたくない話でしたか…私の思い違いかとも思いましたが。」
彼は全てを理解しているのであろう。兄の死によってセグトラにもたらされる状況を…。
「私の思っている通りなら…先ほどの返事の内容も変わると思いますが…?」
「どういう意味ですか?」
ラヴェリアが何を言いたいのか理解しかね、折り返し問う。
「あなたは軍に入りたくない…そして共和国はあなたを評議委員として必要としている。利害関係は一致しているはずだ…と言う事です。帝国との先端が開かれた今、共和国はあなたのような人材を戦地で無駄に失うほど人材豊富ではないのですよ。」
セグトラは不意に示された答えに戸惑い、そこにラヴェリアがいることも忘れ思考に落ちる。
いくら考えてもでなかった最良の答えが今この瞬間に与えられたのだ…それも仕方のないことであったろう…。
(…評議委員になればあの男が何をしようとも軍の一兵卒として入隊させられる事は…ない。)
現在の緊迫した状況であれば、評議委員が軍を率い戦地へ赴く事もあるだろう…しかしそれは指揮官としてであり、己の命を危険にさらして最前線で戦う兵士としてではないのだ…。
このまま兵士にされるよりは、生存率も高ければ己の自由になる部分も多い…ただ一つ…評議委員となり、共和国民や兵士たちの命を背負う覚悟さえ持てば…。
それを背負う覚悟を持てずこれまで断り続けてきたのだが…決断する時が来た。
(…腕や足を切り落とすよりもましですし…ね…。国を背負って立つ覚悟ですか…ふふ…やってみせようではありませんか。)
結論を導きだすと共にセグトラはラヴェリアの方へ歩みより、答えを口にした。
「わかりました…評議委員の件よろしくお願いします。」
「そう言ってもらえると思いました。では、よろしく頼む。セグトラ委員」
そういうと、手を差し出し、握手を求めてきた。
セグトラはその手を握りつつ、また別の決意も胸に刻んでいた。
(どんな形であれ恩は恩…返さなくてはなりませんね…。)
親ラヴェリア派の一員としてラヴェリアのために…働く…決意を…。
―――そして2周期後…評議委員選挙にて他候補を圧倒してセグトラは評議会入りを果たした…。
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