決別

セグトラ

セグトラが評議会委員となってから1周期半…今にも帝国との本格的な戦争が始まろうとしている最中、セグトラは政務に紛争していた。
「ったく…人材不足、戦力不足…不足不足不足不足! しかも圧倒的な敵の武力に国力! どうしろって言うんですかねぇ…」
ぶつぶつと愚痴をもらしつつも、書類を処理する手は全く止まらず、最速で動いていた。その状況を打開するのが彼の仕事だ。
そんな…ある意味すでに戦場のような彼の仕事部屋にノックをする事もなく踏み込んできた男がいた。
「貴様! どういうつもりだ!!」
その男が大声で叫ぶ…周りにいたセグトラの部下たちは急な侵入者を取り囲んだが、その男の顔を見て動きを止める。
何事かと思い顔を上げたセグトラの目に飛び込んできたのは…見慣れた男の顔だった。
そう…見慣れた…父の顔だった…。
「これはこれは…帰っておいででしたか。お帰りなさいませ。ご無事でなによりです。」
セグトラは書類を処理していた手を止め立ち上がり、今にも掴みかからんばかりの男の前に立ち、頭を下げながら言った。
顔には笑みが浮かんでいた…が、その目はとても冷たく、相手を見下している目だった。
部下達は突然の訪問者と、セグトラの豹変振りに混乱し外に出る事すら思いつかないのだろう完全に固まり、呆けたように二人を見ていた。
セグトラも父もそんな周りを気にすることなく続ける。
「ふん…心にもないことを言いおって。そんな事はどうでもいい! 何故わしに息子の死を知らせなかった!?」 「おや? これは意外でした…そんな事を聞きにわざわざ来られたのですか?」
「そんな事だと!? 貴様の兄の死であろうが!」
セグトラは胸倉に掴みかかってきた父をかわしつつ続けた。
「誰も兄さんの死とは言ってないでしょう。情報を止めた事を指してそんな事と言ったのですよ…だいたい少し考えれば理由ぐらいすぐわかると思いますが?」
父は崩れた体勢を直しつつ――気が削がれたのだろう掴みかかってくる事はなかった――疑問を口にした。
「何だと? どういうことだ?」
「兄さん達が死んだ今、あなたが帰ってくれば私を軍に無理矢理入れようとするのは分ってましたからね…。時間を稼いだのですよ。」
セグトラの言葉を聞くなり、頭に血が上った父が殴りかかってきたが、セグトラはそれを軽々とかわしていく。
たとえ職業軍人といえど、老齢の父の一撃をかわせないほどセグトラはとろくはない…幼い頃には無理矢理武術を仕込まれている。
すぐに体力が尽きて動けなくなった父を見下ろしながらセグトラは続けた。
「そして…私が共和国評議委員となった今、時間稼ぎの必要はなくなった…だからあなたに兄さんの死を伝え、呼び戻したのですよ。」
「貴様…どこまでもわしをこけにしおって! 青二才の癖して…育ててやった恩を忘れたか!!」
その言葉を聞き…セグトラの顔が変わった―――めったに出さない事彼の…本気で怒った時の…鬼のような形相であった。
「あんたに育てられた記憶なんかない! 幼い頃は母任せ! 母が死んでからは家政婦が私の親代わりでしたよ! …だいたい息子を貴様呼ばわりする男に父親面されたくありませんね!!」
「くっ…生意気ばかりを言いおって! 貴様のような出来そこないがわしの息子などおこがましい…貴様のような軟弱者、わしの恥でしかないわ!」
「そうですか、では親子の縁を切ってください。私にとってもあなたにとっても邪魔なだけのものですから。」
「ふん…よかろう。望むところだ! 貴様に言われるまでもなくそうしてくれる!」
「それはありがたい。今後あなたの顔を見ることもないと思うと気が晴れるようですよ。」
セグトラは元の…氷のような目をした笑顔に戻り、言った。
父はそのセリフを聞き再び殴りかかってこようとしたが…拳を握り締めたままきびすを返し外へと出ていった。
その姿を見送った後、セグトラは席に戻り…再び書類に向かい始めた。
周りにいたセグトラの部下達も少々ばつが悪そうにしつつも、各々の仕事に戻っていた。
そんな中…彼がぽつりとつぶやいた言葉は誰に聞かれる事もなく…ただ消えていった…。
「…これで…身寄りも帰る家もなくなりましたか…。」
それは…寂しさと覚悟を秘めた…一言であった…。

(2002.09.21)


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