心の傷

セグトラ

カルスケートから帰還したセグトラは―――早速働いていた…。
「ふぅ…新部隊の編成…急がないといけませんね…。」
腕と足に受けた傷は浅く無い…動けば激痛に顔が歪む…が、それを押してでも動かなくてはならなかった。
戦局は激しく動き始めている…一刻も早く部隊を率いて戦場へ戻らなくてはならないのだ。
(まずは軍の方に行って兵の確認ですか…前の人達のように…私に付いてきてくれるでしょうか…)
それだけが不安だった…前回の部隊は壊滅している…。
その指揮をとっていた人間に従ってくれるのか…それが不安だった。
(まぁ、それは考えても仕方ないですね…従ってくれなければ…私がその程度人間という事…)
(従わせてみせる…共和国を守るためにも…死んでいった勇士達のためにも…。)
ゆっくりと…自室を後にしようと扉へ向うと――

――トンットンッ

セグトラの出鼻を挫くかのようにノックの音が響く。
「はいはい…。」
少々機嫌を悪くしつつ扉を開けると、そこには若い兵士がいた。
「何の用ですか?」
隠そうとしたつもりだったが、声に不機嫌な色が混じる。
「お忙しいところ失礼します! カーチャ将軍からの預かり物を届けに参りました!」
「カーチャさんから?」
「はっ! こちらであります!!」
そういって兵士が差し出してきたのはきれいに包装された小さな箱だった…。
「え? これですか? …あ、ご苦労様。職務に戻ってください。」
「はっ! では、失礼いたします!」
兵士が去ったのを確認すると、扉を閉じ、セグトラは包装を解いた。
「カーチャさんからねぇ…なんでしょうか…?」
箱の上に添えてあったメモを読む。

これで元気を取り戻せ。

意味がわからないまま、箱を開ける…。
その中に入っていたモノを見て…セグトラは意識を失った…。

―――コンコン
「失礼しま〜す。この度セグトラ委員の副官に任命されましたファルで…えっ?」
部屋に入ってきた少女――ファルは自分の目を疑った。
部屋の主であるセグトラが倒れているのだ…最悪の状況が頭をよぎる…。
(まさか…暗殺!?)
自分の発想に顔を蒼くしながらセグトラに駆け寄る…。
「セグトラさん!! どうしたんですか!? 大丈夫ですか!!」
頬を叩きながら声をかける――と、セグトラに反応があった。
「ぅ…あ?」
「あっ! セグトラさん! 大丈夫ですか? 私がわかりますか!?」
「あ〜っと…ファル…さん? どうかしたんですか?」
状況がつかめないのだろう…セグトラは身体を起こしながら問い返してきた。
「よかった…無事だったんですね。部屋に入るとセグトラさ…委員が倒れていたんですけど…何があったんです?」
「セグで良いですよ…ファルさんはどうしてここに?」
まだ状況が把握できていないのか、再び尋ねてくる。
「あ、評議会決定で今日からセグさんの副官になったんです。よろしくお願いします!」
ファルがペコリと頭を下げて言い、頭を起こすと…目の前のセグトラの様子が変わっていた。
視線が宙を彷徨い何かに怯えているかのような様子である…不信に思い尋ねる。
「どうかしたんですか? セグさん?」
声をかけるとセグトラは急に肩を掴み、震えた声で言ってきた。
「ファ、ファルさん!」
「えっ! えっ!? な、なんですか?」
「い、いきなりでっ…申し訳ないですけどっ! あ、あの…あの箱を…あの箱を処分してください!」
そういって足元の方を指差す…その先には確かに小さな箱があった…。
「これですか?」
そういって拾い上げ、中を覗く…そこにはに輝く飴が入っていた。
「…飴?」
その一言にセグトラがビクッっと震える。
その様子を見て…ファルの脳裏に閃くものがあった。
(セグさんと…飴!?)
思いついた言葉はそのまま声となって出ていく。
「これってもしかして…ゴーヤあ…」
「いやだぁぁぁぁ!! やめっ、止めてくッッ…!!」
言いかけた言葉を遮り、セグトラは急に駆け出して…倒れた。
傷のせいで倒れたのだろうが…そのまま意識を失ったようだ…ピクリとも動かなくなる…。
「…これが…ゴーヤ飴の威力…。」
ファルはゾッとした眼差しで箱の中の『モノ』を見つめ、呟いた…。
少し前に聞いた事がある…セグトラがゴーヤ飴によって廃人寸前まで追い込まれた…と…。
(兵殺し…最凶の食物兵器…至高の拷問道具…噂は本当だったんだ…。)
ファルの頭の中に…禍々しき噂話が浮かんでは消えていった…。

――この後、飴はファルの手で何処とも知れぬ場所で処分されたのだが…セグトラは3日間寝たきりでうなされ続け…
その間ファルは…共和国第六部隊副官として…セグトラの看病という任務をこなしていたという…。

(2002.10.04)


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