セグトラ

「了解しました。準備が整い次第帰還すると伝えてください。」
カルスケート北部の森…前線から少し離れたこの場で待機していたセグトラの元に早馬が送られてきた。
議会からの命令…首都への帰還命令だった。
「やれやれ…やっと帰れますか。」
セグトラは一人になったのを確認すると、ため息と共に呟いた…。
実はかなり前から許可申請していたのだが、なかなか許可は下りず…そして、今日命令という形で許可が下りた。
(どうやら…しばらく居ないうちに評議会もだいぶ荒れているようですね…)
わざわざ命令というかたちで許可を出してきたあたり…また権力に凝り固まった連中が騒ぎ出したのであろう…。
「この程度で自分が上だと思えるんだから幸せですよねぇ…ああいう連中を最前線に送れってんだ…。」
「い〜んですかセグさん!聞いちゃいましたよ♪」
ぶつぶつと愚痴っていると、ふいに背後から声をかけられる。
振り向くとそこには副官のファルが立っていた。
「別にかまいませんよ。いつも言ってる事です。」
「ほっほ…相変わらずですなぁ。それで帰還の許可が出たのですかな?」
さらにその後ろから声をかけてくる男がいた…初老の、いかにも好々爺とした感じの男…第六部隊補佐官タルス。
おそらく外で聞いていたのであろう…単刀直入に聞いてくる。
「ええ…やっとね。で、帰還準備にかかってほしいのですが…大丈夫ですか?」
「あ、はい♪ 早速全軍に指示してきます!」
そういうとファルは止める間もなく飛び出していく。
「あっ…遅かったか…後ろにいる彩音さんの部隊と交代だからそんなに急がなくてもよかったんですが…」
「ほっほっほ…元気でよいではありませんか。それに準備が早くて困る事はないですぞ。」
「まぁ…そうですね。んじゃ、こっちは部隊状況を確認しておきますか…現状で被害はどれくらいになっていますか?」
「死者、重症者あわせて千名といったところですかの。」
「千名ですか…また結構な人数になりましたね…。」
少し視線を落とし、暗い面持ちで言う。
そんなセグトラの様子を敏感に察知したのであろう…タルスが口を開く。
「やはり戦場に向いてはおられませんな…セグトラ様は。言っておきますが、また以前のように…」
「後悔して弱気になるな…と言いたいんでしょう。」
セリフの途中で口を挟む。その通りだったのだろう…タルスは少し驚いているようだ。
「分ってますよ。この部隊を編成した時にあなたに言われた言葉…忘れてはいませんから。」
「…どうやら要らぬ世話のようでしたな。」
「戦場で散った命は無駄ではない…少なくとも死んでいった本人たちはそう思っている。後悔などで彼らの命を汚すのは止めろ…でしたか。」
「覚えていたのですか…彼らの命の価値を高めるも貶めるも上に立つ人間の行動しだいですからな。」
「ええ…分っています。彼らの価値…最大限まで高めてみせますよ!」
「ほっほっほ…その意気ですぞ!それだからこそ我等はあなたに命を預けたのですからな。」
二人で頬を緩めていると、出ていった時と同じ勢いでファルが入ってきた。
「指示出しました!すぐに出発できるようになります♪」
二人ともその様子に思わず吹き出してしまう。
「え? え? ど、どうかしたんですか? 私…失敗してませんよね?」
「ふふ…大丈夫ですよ。ご苦労様。助かりましたよ♪」
「ははは…元気があってよいのぉ♪」
「はぁ…?」
一時だけ明るくなった天幕の中…新たな決意と共に多くの命が歩み始める…。
(皆の命…無駄にしてなるものですか。そのためにも…闘わなくてはね…。)
武器をもって闘う戦場とはまた別の戦場へ向けて…共和国第六部隊「命」…帰還。

(2002.10.21)


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