負傷

セグトラ

「気付いたようだね。」
目覚めてからしばらく後…声をかけられた…声の主に見覚えは無い。
着ている物から推察する…おそらくは医者…。
「ここは何処ですか…」
気が付いてから初めて声を出す…少し掠れているが紛れも無く自分の声。
「ガイ・アヴェリとカルスケートの中間だよ。小さな村さ…。」
頭の中にいくつかの候補が浮かび上がる…確かにいくつかの集落があったように記憶している…まだ人がいるとは思わなかったが…。
隣にいる医者が嘘をついていなければ…共和国の領内なのだろう…。
「で、どうやって私はここに?戦場で倒れたところまでは記憶していますが…。」
「兵士が担いで来たよ。首都まで戻る時間が無いとかで置いていったんだよ。」
なるほど…運良く拾われたという事か…ここが本当に共和国なら自分の強運に恐れ入るところだ…。
「まぁ、あのまま首都まで戻ってたら君、生きてないだろうけどね。」
続けて言われた言葉に、思い出したように体の痛みがよみがえってくる…。
「それほど…ひどかったのですか? …一応詳しく教えてくれますか?」
目の前の医者が信用できるかどうか…敵であれば私を生かしておく意味が無いか…。
とにかく自分の状態くらいは把握しておかねばならないだろう…。
「そうだね…ま、目立つ傷を挙げればこんなところかな。」
紙に書かれた人形に線が引かれていく…こちらは前か…右肩から斜めに、左手を横に、右脇腹には円…。
隣に描かれた人形にも同じように…肩甲骨の下あたりを横に、そして両足にはバツ印が付けられた…。
「ふむ…ずいぶんとまた派手にやりましたね…。で、治療のほどは?」
「一応済ませたがね…ここではたいした事は出来ないよ…首都にでも行けば違うのかもしれないがね。」
「物資の不足…ですかね?」
「なんだ、わかってるのかい。その通りだ。これほどの傷をちゃんと治療できるほどの物はないね。」
「…ならば、早めに帰ったほうがよさそうですね。」
とりあえず身体を起こそうと試みる…。
「やめなよ…まだつらいだろう。それに自力で帰るのは無理だよ。」
確かに体が上手く動かせない…痛みのせいもあるが…何かの違和感もある。
「まぁ、早く帰ったほうが良いのは事実だからね…とりあえず首都には連絡したからしばらくは辛抱するんだね。」
「ずいぶんと準備がいいのですね…」
「そりゃね…君が長くここに居られるような人間でない事はわかっているし…それに…」
少なくとも私が評議委員という事は知っているという事か…あるいは聞いたか…。
「君の足だが…あまり良くない。足の負傷が酷すぎるからバツにしたんだけどね…当分は立つ事すらままならないだろうね。」
言われて気付く…全身から伝わってきていると思っていた痛みだが…足…いや、下半身からは全く感じない。
むしろそう…何も感じないというべきか…。
「ここでは治るかどうかもわからないね…だから早めに帰れるように手配だけしておいたんだよ。」
「そう…でしたか…。」
「ま、しばらくはここで静養する事だね。」
それだけ言い残すと、医者は部屋から出て行った…残されたのは自分一人…。
今現在も戦いは続いている…一人になって思うのは戦場の事ばかり…。
「ふぅ…私もずいぶんと変わってしまいましたねぇ…。」
評議委員になって…戦争に関わって…戦場に出て…多くの喪失を見て…全ては…己の選んだ道…。
もう…引き返せまい…。

(2002.11.25)


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