コーヒータイム
ソフィア
〜優しそうに見えて、言葉も態度も優しいのに、実は違う人がいる。どこがどう違うとはハッキリ言えないけれど。つめたく見えて、とてもとてもつめたくて、言葉や態度も冷たいのに、ハッとするほどの優しさを感じる人がいる・・・・・・〜
マドリガーレ家の陽の塔奥深く。
「朝のお薬の時間です」
気難しそうな顔をした医師がいつものように彼女の部屋に入ってくるのを、出窓の枠に置かれた主なき仮面が、冷たく迎えた。その仮面は一体幾つの主の表情を押し隠してきたのだろう・・・・・・無造作にそこに置かれた仮面は、驚くほど表情豊かに訪問客を見つめている。
「そうですか・・・・・・」
マドリガーレ家に仕えるリリエが、それだけ言うと、ベットに半身を起こした主の下に医師を案内した。
「そう・・・・・・朝なの」
何の感慨を抱いた様子もなく差し出された彼女の腕を、医師は丁寧に手首から捲くりあげていく。そのまま宙空に溶けてしまいそうな白い二の腕が、薄暗い寝室の中に淡く浮かび上がった。
「今日は、恐れながらこちらでございます」
「侯の御意向ですか??」
注意深く脈を取りながら、医師が手馴れた様子で一本の注射器を取り上げるのを見たリリエの表情が一瞬昏くなるが、主の端然とした様子に、その変化も瞬く間に消える。
「そうなの・・・・・・」
塔の主は、医師の言葉にも、そしてリリエの表情にも注意を払った様子もなく、医師のされるがままに、腕を任せた。
びくり、とその表情が動く。
やがて、機械的な正確さで「それ」が彼女に注がれていく・・・・・・。
処置が始まり、終わり、医師が出て行くまで。
その視線は塔の窓に向けられ、何か遠くを見ているようであった・・・・・・。
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