コーヒータイム2
ソフィア
「……」
正直に言ってCrimson Knights(真紅の騎士団)の副将であるアリス将軍は戸惑っていた。
15歳の頃から戦場に立っていた生粋の武人としては、戦場に出たことすらないソフィアの率いる騎士団の副将に任命された時から「お守り役」であることを覚悟していたのだが……。
「どうしたんですか?コーヒー、冷めますよ」
噂に聞くプラチナの悪魔とは随分イメージが違うコトにも面食らったが、鎧も剣も身につけず、肌も目も弱いからという理由で外に殆ど出ないとは……。
「肌も目も弱くていらっしゃるので、とても外を歩けるお身体ではないのです」
ノースリーブのワンピース姿で現れたソフィアの透き通るような二の腕を見たアリスは、常に彼女の傍らにいるリリエの言葉に「なるほど」と頷いたものである。
「閲兵式は、また私が?」
「こんな仮面を見るよりは、アリス将軍のお顔を見た方が兵の士気もあがるでしょう? 軍の事は、将軍に全てお任せしていますから、よろしいようになさって下さい」
……ある意味、貴族の、しかも侯爵家の人間であるにも関わらず、戦場叩き上げの自分に「任せる」と言い切った上、本当にそのようにしてしまう度量というのは大したモノなのかもしれないが、それにしても……
「ロンド家の当主が、月の塔でどなたかにお会いになられた聞きましたけれども、ソフィア様の素顔をお見せになられた方が、兵の士気はあがるんじゃ……?」
アリスとしては、ほんの冗談のつもりであったが、その一言は意外な急変をもたらした。
「………」
柔らかな口元から笑みが消えると、ソフィアはすっと窓際にまで歩み寄ったかと思うと、己の二の腕を窓から降り注ぐ陽光に晒した。午後の、暖かな陽射しが白磁のような肌を照らす。
「ソフィアさまっ!!」
しかし。
みるみるうちに、その腕が真っ赤に、まるで火傷を負ったかのように痛々しく腫れあがるのを見た瞬間、アリスは息を呑み、リリエはとっさに自分の上着を脱ぎ、そっと患部を包んだ。
「水とお薬を」
リリエの柔らかく、しかし鋭い声に、近習たちが慌てて部屋を飛び出していく。
「……あ……」
「こおいう身体なのです。所詮、私は月のようにただそこに在るだけなのかもしれませんね」
痛みをこらえる風でもなく、気丈に振る舞いつつも、その声がかすかに震えているように聞こえたのはアリス将軍の気のせいだったのだろうか……。
「気にしないで下さいね」
にこりと、その唇が微笑むのを見た瞬間、アリス将軍はただ頭を下げるしか術はなかった。
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