3年前・・・
ソフィア
忘れなさい
忘れるために
忘れようと
忘れっこない……
マドリガーレの双子の姉妹。身体も人並みに丈夫で頭も良く、きちんと帝立院にも通い、いつも友達に囲まれていた姉のカデンツァ。身体も弱く、外にも出られず、ほとんど塔にずっといた双子の妹ソフィア……。あまりに違う境遇ながらも、二人の魂の色は同じであり、同じものを愛し、同じものを美しいと思い、同じものを尊重していたあの頃は、今よりずっと幸せだったのかもしれない……。
「???」
キリグアイの街に展開していた帝国軍第12部隊。
一人の近習が朝食を取る主の腕を見て、かすかに首をかしげた。
……ないな……。
何かが足りないように思えたのだが、彼は結局それが何だったのかを思い出す事は幸いにもできなかった。もしも思い出していたら……??
「ユーディス様は復帰しましたね?」
「はい。初戦の負傷は完全に癒えたようです。まぁ、ロンド隊は、妹さんたちもいらっしゃいますから」
くすりとリリエの唇がほころぶが、すぐに難しい顔をする。
「貴女がこんなトコロまで出てくるのは、本当は反対だったんですよ。何で帝都でおとなしくしていて下さらないんですか?」
「あら? 上にあるもの、臣下領民の目線を忘れるべからず……そう教えてくれたのはリリエではないですか」
「……はいはい。確かにそうお教えしましたよ。でも、あともう一つ……」
「君主、危うきに近寄らず、でしょう?」
リリエはクスクスと笑う主の顔を見て溜息をついた。
「本当にああ言えばこう言う……。だ・か・ら<悪魔>だなんて呼ばれるんです」
「誉めて頂いているのかしら?」
「御自分の胸に手を当てて、よくお考えになってください」
難しい顔をするのを諦めて、とうとうリリエは軽やかに笑い出した。
同時に、仮面の奥の顔もほころぶ。
「貴女という方は……」
二人は、その場でクスクスと顔を見合わせていた。
それは、戦場に入らんとする直前の、つかの間の一時であったのかもしれない。
しかし。
笑っているはずのリリエの目に、かすかな涙が浮かんでいたのに気付いた者は、彼女の主を除き誰一人としていなかったのだ……。
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