胎動

ソフィア

「・・・カデンツァ・マドリガーレが生きている?」
 最近、宮廷の闇の世界でも急速に注目されるようになったルドルフは興味なさそうに呟いたが、その瞳の光は言葉を完全に裏切っていた。
「そおいう噂は、何度も聞いているよ。陛下の後妻に内定しかけたカデンツァと、身体が弱く殆ど表に出る事のなかった双子の妹ソフィア・・・。カデンツァ暗殺後、何故か仮面をつけた姿で急に彼女が表に出始めた頃からね」
 その言動の二面性から、二重人格とも、実はカデンツァは生きており、時と場合により仮面をつけて入れ替わっているとも、様々な憶測が裏では囁かれ続けていたのだ。
「プラチナの悪魔と呼ばれるあの女性は、確かにカデンツァの面も、ソフィアの面も持っているんだろうね。もっともソフィアについては、元々の情報が少ないから何とも言えないけど・・・所詮噂だろ」
 それが、ネルの言葉でなければ。
「モンレッドで、あの方が陽射しで火傷を負ったのを手当てした近習の言葉なのですが、翌日、その火傷の跡は綺麗さっぱりなくなっていたというのです」
「・・・・・・元々影武者だった可能性は?」
「言動、振る舞い、いつもの通りだったようです。もっとも、おっしゃる通り二面性のある方ですから、そこは何とも・・・。ただあのような雰囲気を持った人間が何人もいるとは・・・」
「仮にカデンツァが生きていたとして、何故隠す・・・。あの時の大量の暗殺の単なる口実だったのか・・・。いや、待てよ・・・仮に生きていて、皇子でも産んだらどうなる・・・? 皇位継承問題は一気にカタがつく。なるほど、マドリガーレが現在の後継者争いを静観するのも納得が出来る。しかし、それにしても不確定すぎる・・・。第一、そもそもマドリガーレはカデンツァを出したがらなかった筈だ・・・」
 一瞬にして思考がまとまると、ルドルフは立ち上がった。
「どちらに?」
「確かめる。今は帝都にいるはずだろう」
「月の塔を敵に回すつもりですか!?」
 主の言葉に、ネルは思わず声が大きくなった。
「今は、事を荒立てはしない。特に各地での戦いが激化している今は・・・」
(もっとも、この道を塞ぐのであれば、いずれは叩き潰さなければならないが・・・)
喉の奥で楽しげに笑い、しなやか身のこなしで部屋を出ていった主の背中を、ネルは一人の男のコトを思い出しながら、見送るしかなかった・・・。

P.S
何となく、です。 ネルさん、ルドルフさん、御出演ありがとうございます〜(平伏)


(2002.10.19)


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