ひととき その2
ソフィア
「・・・どこかの国の戦う内政官さんは<椅子と机が恋しい>と慨嘆されたそうですけれども、さしずめ貴女なら<ベッドが恋しい>というところですか? ・・・よくもまぁ、強行する度にお熱を出されて・・・たまにワザとなんじゃないかと思いますね」
リリエの言葉の内容自体は辛辣であったが、その口調は何処か甘やかすようでもあり、白い指先がそっと主がくわえていた体温計を優しく取り上げる。
・・・38度5分・・・。
「あら、私は一度も戦ったことはないですし、いつもアリスさまのお手を煩わせてばかり・・・。それに、もしかしたらワザとかもしれませんよ?こうして寝込んでいる時は、リリエも優しくしてくれますから」
ふっと曇ったリリエの表情を見た素顔のソフィアは、かすかに笑った。
「はいはい。ワザとであれば、どんなに安心できるコトか・・・。せめてその頭の回転の半分位、お身体の回復も早ければいいんですけど・・・」
嘆息するリリエと、クスクス笑い続けるソフィア・・・。そんな二人を、笑っていいものやらどうしたものやら分からない表情で・・・でも、結局見ていたアリスも笑い出す。
モンレッド、ルーン、帝都、リュッカ・・・そして再び帝都。
転戦を続けてきた帝国軍第12軍は、アリス将軍あっての帝国軍第12軍である。彼女がいなければ、ソフィアもまたこうして静かにベッドに横になどなれていなかったであろう。
<勝利の女神>
アリス将軍は、既に帝国軍第12軍の全将兵からその名で呼ばれ、圧倒的な支持を受けていた。
帝都に強行したにも関わらず、その士気は依然として高い。
そして。
「・・・また、出撃が近いんですか? 全て、アリスさまにお任せいたします。どうか、よろしいように・・・」
この場の雰囲気に言い出し辛そうなアリスの心中を見透かしたように、プラチナの悪魔が微笑みかける。
そのソフィアの言葉に、アリスの胸中には何故か哀しいような思いすら募り、勝利の女神はただ優しく彼女に微笑むしかなかった・・・。
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