覇王と翼ある軍師・・・

ソフィア

「この帝都にレヴァイアの私兵の乱入を許すとはな・・・。帝都に居る将軍は?」
 不機嫌そうな中にも、戦に赴く高揚感からか何処か嬉々とした表情でセルレディカは鎧を手伝うエルに尋ねた。
「軍団の順で申し上げますと、ソフィアさまの第12軍、アオヌマシズマさまの第17軍、そしてヴィネさまの第22軍でございます。既に第12、17軍は迎撃に出ております」
 甲斐甲斐しくセルレディカの鎧紐を結びながら即答する美しい軍師の言葉に、武帝の顔がほころんだ。
「・・・テンプル・ナイツ、か」
「御意」
 かつて、バーネット・クルサード、アオヌマシズマ、そしてソフィア・マドリガーレの3人で「テンプル・ナイツ」を組織するように命じた事があった。諸般の事情で3名は各々の軍を率いる事になったが、当時その指揮下におかれる可能性のあった将兵は恐怖と畏怖に慄いたという・・・。
「ロンドの小倅の妹は大切な内政の要、大事に労わってやれ。ソフィアも戦場では見栄えのいい置物に過ぎんが、アリスがついておる。あの壊れた男との2部隊で充分駆逐できるな」
「はい」
 獅子は兎を狩るにも全力を尽くす・・・。
 手垢のついた言葉であり、帝都に乱入したレヴァイア部隊はいずれも精鋭揃いである。
 己の旗下の将軍たちの力を充分に知り尽くし、勝利を確信しつつも、覇王は戦装束に身を固める事に余念がない。
「ソフィアさまの部隊、叢雲殿の部隊を壊滅。叢雲殿は月の塔に移送とのことでございます」
「シズマさまの部隊、フレア殿の部隊に攻撃。壊滅は時間の問題との事でございます」
 しかし。
「・・・どうやら、出る幕はなさそうだな・・・」
 伝令たちがひっきりなしに駆け込み、皇帝に戦況を刻々と伝えてくる。その内容にやや物足りなさ気に、しかし充分に満足そうな表情でセルレディカはエルに笑いかけた。<孤高の皇帝>の孤独を唯一知る者にだけ向ける笑顔・・・。
「シズマさまの部隊に、フレア殿自ら先陣に立って突撃を敢行するも、返り討ち。敵部隊を全滅させた模様です。フレア、クロス両将軍を捕虜としたとの事でございます!」
 そして、戦いの終わりを告げる最後の伝令がシズマから届いた。
「やれやれ・・・。たまには刀も抜いてみなければ、切れ味を恐れられなくなってしまうかと思っていたのだが、今回も抜くには至らなかったな」
 好戦的ではあるが、決して戦を好むわけではなかったと後世の歴史家たちは「乱世の覇王」を分析している。己が戦場に立つ事を好んではいたものの、無益な戦は決してしようとはしなかったのだ。そしてこの帝都での攻防戦もまた、旗下の将軍を信じ、己の親衛隊を温存させ、後事に備えた戦略眼は高く評価されている・・・。
「陛下御自らが刀を振るわぬよう、我等がいるのです。何卒、御身を大事に・・・」
 翼ある軍師は透明な眼差しをセルレディカに向けると、今度はその軍装を解くために再び覇王の下に跪いた。

(2002.10.27)


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