御前会議
ソフィア
「・・・・・・・・・・」
帝都。
覇王セルレディカ即位以来、決して外敵の侵入を許したことのないこの地にレヴァイア王国の私兵部隊が乱入したのは、ほんの数日前の事であった。
「・・・刀もたまには抜いてみないと、その切れ味を誰も恐れなくなるというが・・・」
セルレディカの言葉に、円卓に座る帝国軍の諸将は黙って頭を垂れた。
武帝の傍らには、軍師エル。円卓の右側には帝国軍第13部隊「ブラッディ・クロス」率いるバーネット、第17軍「PUSSY FOOT」率いるアオヌマシズマ、未だ負傷癒えない第3軍「帝国第三騎士団」率いるルーデルが座している。
「・・・・・・・・・・」
円卓の左側では、帝国軍第12軍「Crimson Knights」率いるソフィア、第22部隊「ラピス・ローズ分隊」率いるヴィネが静かに皇帝の言葉に耳を傾けていた。円卓の左右に武将と文官が分かれて座るのは帝国の伝統である。・・・遠い将来においても、様々な派閥や思考に分かれた文武百官がこの円卓に座り続けるに違いない・・・。
「・・・王都から戻られたバーネットさまからの報告でも、レヴァイアに兵なし、は間違いないでしょう。もともと兵を養うには不向きな地勢である事に加え、今回の独立戦争で殆どの民が兵に駆り出され、その国力は疲弊しきっています」
仮面の女性は、淡々と言葉を継いだ。
共和国方面、クレア方面、そしてレヴァイア方面と、現在の帝国は3方面で戦いを繰り広げている。いかに帝国に将多し、と言えども疲弊は激しい・・・。今後の展開は以前にも増して予断を許さない状況になっている。
そんな中で開かれた御前会議であった。
今後、帝国は如何なる方向に舵を切っていくのか・・・?
「少し王都に揺さぶりをかけるだけで、レヴァイアの軍事力は瓦解し、今回の戦争も終わる、とは思いますけれども・・・陛下はそれをお望みではないかと推察しています」
くすり、と。
その美しい唇が微笑むのを、セルレディカは満足気に見据えた。
「相変わらず・・・だな」
武勇をもって知られる覇王は、悠然と玉座から立ち上がる。その瞬間、周囲には雷雲が立ち込めたが如くの激しい緊張感が走った。
刀とは、いかに美しく、名刀と誉め称えられていたとしても、「斬る」というその一点にのみその存在価値はある。その場に飾られているだけであれば、それは既に「刀」ではないのだ。無論、刀を抜かずに、レヴァイアを滅ぼす事も可能であろう。しかし、刀とは鞘から抜いて、初めて刀としての役割を示すのだ。
「その言や良し。まさに余の意の通りである」
その言葉に、列席していた諸将が、エルでさえ一斉に立ち上がった。皆、一様にその表情には緊張と、ある種の歓喜が漂っている。・・・彼等は、帝国の為に戦い、帝国の為に死ぬ帝国軍の将軍たちであったのだ。心地よい張り詰めた空気が円卓の間に張り詰める。
「勅命申し伝える。しかと聞け」
バーネット、シズマ、ルーデル・・・。そしてヴィネ、ソフィアが覇王を見上げた。
「バーネット、シズマ、ソフィア。その方たちはただちに旗下の部隊を率いてレヴァイアを攻め落とせ。バーネットとシズマに先陣を命じる。抵抗する者は容赦するな。二度と下らぬ希望など持たぬよう、徹底的に破戒し、屈服させよ」
「・・・・・・・」
その言葉にバーネットの凛々しい顔がさらに引き締まり、一方のシズマはその美しい顔に何とも妖艶な笑みを浮かべて皇帝に応える。
「余の名代としてエルを総司令として派遣する。ソフィアはエルを補佐せよ。レヴァィア占領後の政策はエルとそなたに任せる」
そこまで言うと、セルレディカはヴィネに顔を向けた。
「その方は引き続き帝都で国力の充実に努めよ。兄が心配であろうが、その方はその方で、今出来る事に最善を尽くせ」
「はい」
可憐な顔が緊張感を湛えて一礼するのを見たセルレディカの表情に満足気な笑みが浮かぶ。
「ルーデル。そちは早く傷を癒せ。お前が前線に出ないと、どうにも締まらないのだ。第一、誰のせいでソフィアを前線に送ると思う? このヴィネの細い肩にばかり負担をかけおって・・・困った奴よ」
「・・・・・・・・・」
無論、その言葉は冗談ではあったが、勇猛をもって鳴る第三騎士団の頂点に立つ隻腕の猛将をも恐縮させるには充分であった。
「以上だ。諸将の健闘を祈る」
そして。
無駄な儀礼を厭う武帝は、それだけ言い放つと、くるりと円卓に背を向けてその場を立ち去る。そして、諸将たちも、各々の決意を胸に秘めて皇宮をあとにする。
第二次レヴァイア遠征のはじまりであった・・・。
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