憧憬
ソフィア
「・・・・・・・・・・そう」 共和国軍の勇将キロールの「遺言」を聞き終わったソフィアは、ただ、それだけ応えた。何かしらの反応を予想していたリリエは、正直拍子抜けしたような思いであったが、黙って執務室を辞そうとする。 しかし。 「・・・リリエ・・・」 「はい」 縋るような、そして柔らかな声がリリエの足を止めさせた。 「あの方は、最期まで“武人(もののふ)”でいらっしゃるのですね」 「だから、あの時、貴女もキロールさまと“会われた”のでしょう? 御自分が決して“そう”はなれない事を知りながら、貴女はあの方の真っ直ぐに道を誤らず、己の足で運命を切り拓く太陽のような輝きに惹かれて・・・。忠告したはずです」 リリエは、白銀の仮面を真っ直ぐに見詰めた。 「そう、でしたよね・・・。あの方は、自分が正しいと思ったことを自分で成され、御自身が自らの王である方・・・」 「貴女の救われないトコロは、自分が信じてもいない事、正しいとすら思っていない事を、さもそれが自分の考えであるかのように行うところなんでしょうね・・・」 それは、シズマが語った言葉であっただろうか。 「せめて、もう一度・・・」 「生憎、父君は貴女をまだ失うおつもりはないそうです」 敢えて冷たくリリエは言い放った。そうでもなければ、目の前の女性は、その心のままに刃に身を投げ出すに違いなかったから・・・。 「・・・きっと、あの方は戦場で戦い続けながら、私のコトなどお忘れでしょう・・・。次の面会者をこちらにお呼びして下さい」 「ギルド長ですね。控えの間におりますので、呼んでまいりましょう」 仮面はリリエの痛ましげな眼差しを硬く撥ね返すと、再び冷たさを取り戻す。 そんな彼女に、リリエただ黙って一礼するだけであった。
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