孤月
ソフィア
「紅さまが、セリーナさまの下に・・・」 「そう・・・」 リリエの報告にも、主は特に何の反応も示さず白磁のカップを唇に運んだ。煉獄のように熱く、絶望のように黒いマンデリンの深く、苦い香りが漂う。 「その手も、全身も、吐息すらも朱に染めて、あの方は導かれるが如く選ばれし主の下に行かれたのですね・・・」 コーヒーをサーヴしながら主の表情を伺ってみるが、無論白銀の仮面は冷たく月光を弾くのみ・・・。 「帝都も、再びキナ臭くなってきましたね」 「・・・・・・」 あの密室での会話は、誰にも、リリエにすら打ち明けられてはいない。 だが・・・。 〜もし、あの手を取っていれば・・・???〜 〜否、一人の、一介の個人の力などでは、歴史の歯車は変わらない・・・〜 〜あんなに大切にしていたのに??〜 最近、益々生きることに興味を失っていくような主が、段々と自分から遠くなるように思う。レヴァイア以降、クスリも拒絶している。これなら、まだ己の存在を憎悪していた頃の方が生き生きとしたいたかもしれない程・・・。 「・・・そう・・・」 だが、彼女は静かにコーヒーを口に運び、窓の外に浮かぶ月を見上げただけであった。
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