人の思うところ

空 翔三郎

先の聖都戦での傷も癒え、帝都からシチルへと移動してきた空翔三郎は
再度の出陣のため先にシチルに戻り部隊の編成を行っていた朝霧水菜の
元を訪れていた。

「まいどっ!(^^)/  水菜嬢ちゃん居んけ?」
「あ、空さん・・・何か御用ですか?」
「んー、あんな、部隊編成の合間にちーっと出かけてこうかと思うての。
 水菜嬢ちゃん、良けりゃあウチの副官ちょい手伝ってやってくれへん?」
「あの・・・自分の部隊のこともありますし、ミルさんの代わりをさせられるのは・・・・」
「いや、今回はサボりや無いから」
苦笑しながら空は答える。

「ちょっとな、今回はオレがコマと一戦やらかそー思うてよ。
 どげん話持ってくかとか幾つかやることあっから」
「まあ・・・そういうことでしたら・・・・」
「ん、ほな済まんばってんよろしゅうの」
「はい・・・ところで、手を下ろしてもらえます・・・・?」
いつもの調子で頭を撫でる空に、今度は水菜が苦笑しながら答えるのだった。




「ふぅ・・・」
部隊の編成を済ませて戦場に戻ったコマは思わず溜息を洩らした。
さすがに聖都の間近にまで敵が迫っているとなると兵士達の士気も低い、
戦わずして離散兵が出る有り様であった。何とか形は整えたものの・・・
これからどうするか、頭の痛いところだ。

「コ、コマ将軍!」
一人の兵士が天幕に駆け込んできたのはそんな時だった。
ひどく慌てた様子で・・・それだけでなく緊張が見て取れる、何だろう?
席を立ってそちらに行こうとした。が、答えはすぐに、それも答えの方から来た。

「おう、邪魔すんよー」
「ぶっ!?」
コマは驚きつつも先程の兵の様子に合点が行った、実に気軽そうな声と共に
天幕に入ってきたのは紛れも無く帝国の将軍である空だったからだ。

「な、何で空さんがここに居るんっすか!?」
「何でっちわれても使者としてちょっと話しに来てん。ほれ、白旗」
ぱたぱたと軽く白旗を振ってみせる空に対して、コマの方は最初よりは
落ち着いてきたもののさすがにまだ動揺が激しかった。
何考えてるんだ?この人は。敵陣の真っ只中に一人で来るなんて・・・
周りには兵士も集まってきている。状況に戸惑っているのか、空の力を
警戒してか、飛び掛りこそしないもののピン…と空気が張り詰めている。
ほんの少しのキッカケがあればこの均衡は崩れてしまいそうだ。

「さて、オレも他にやることあんしさくっと話済ませてまおうか」
しかし空の方は特に意に介する様子も無く平然と話をしている。
この人やっぱ無茶苦茶だ、訳分かんねぇ・・・
コマは内心で呆れ半分、ある意味で感心半分の状態だった。

「オレともっかい一騎討ちしーへん? シチルやケリつけられんかったしな。
 これ逃すと次はもう無さそうやし、どないやろ?」
その言葉に、コマは・・・




「さて、シチル戻ったら部隊の方でも・・・」
「空さまっ!」
永倉隊を迂回して帝国第6部隊を抜ける途中、空は横合いから声をかけられた。
声のした方に目を向けると元の副将、今はこの部隊を率いる将軍である
ミル・クレープがかなりつり上がった目で自分のことを睨んでいた。

「よ、ミル嬢ちゃん。元気?」
「『元気?』じゃありません! どうして空さまがこんなところに居るんですか!」
「あん、ちょいとコマんとこ行って話してきたかんよ」
「え・・・コマんとこ、行って、話?」
面食らったような面持ちで途切らせながら空の言葉を繰り返すミルだったが
その意味が分かってくるに従い顔つきが険しくなっていく。

「な、な、何考えてるんですかーーーーー!!!!」
数瞬の後、部隊内にミルの絶叫が響き渡っていた。
固く握り締めた拳といい真っ赤と言える程に紅潮した顔といい、ミルは
明らかに怒っていた。それも、これまでのどんな時よりも激しく。

「いや、そげん大声出して怒らんでも・・・」
「怒ります!声を大にして怒ることです! 空さまは将軍で、それも今は
 クレア遠征軍の司令官なんですよ!? それなのにっ」 「大丈夫やって、今回のオレは使者やから。ちゃんと白旗も持ってったし」
「そういう問題じゃありません!!!」
再度、ミルの絶叫が周囲に響き渡っていた。




空がシチルへと戻った頃には辺りはすでに暗くなっていた。
一度、部隊に寄って様子を確認すると空は水菜のもとを訪れる。

「お帰りなさい、空さん・・・部隊の編成は順調に進んでますよ」
「よい、あんがとさん。さっき見てきたべ。
 いやぁ、それんしてもミル嬢ちゃんには盛大にがられたね〜」
「それはそうですよ・・・」
からからと笑う空に水菜は苦笑で答える。
空が何をする気なのか、先に分かっていれば止めたのだが・・・
これではミルも気苦労が絶えないことだろう。

「それで・・・どうでしたか? コマさんの反応は・・・・」
「お断りしまッス」
「・・・は?」
「即答やったよ、少しも迷わんと言い切りよってん」
「はあ・・・そう、ですか・・・・」
まだ少しきょとんとした感じで水菜は言葉を返す。

「この戦争が終わったらメイリィ嬢ちゃんに会いに行くつもりしとんから、オレんような
 危ないヤツは相手しとう無いんやと」
「まあ、確かに・・・」
血塗れになっても平気な顔して向かってくるような人は相手にしたくないですよね・・・
と、水菜は心の中で付け加えていた。

「おお、水菜嬢ちゃんもあっさり肯定すんのな」
「え、えっと・・・(汗) ところで、断られたにしてはあまり残念そうじゃないですね」
「あん・・・コマが、本気やったからの」
咄嗟に言ったことだったのだが、空の反応は意外なものだった。

「最後まで出来るだけのことはする。クレアの将として戦う。しかし、死ぬ気はない。
 必ず生きてただ一人、その人の元へ会いに行く・・・くく、なかなか言うやんけ」
す…と目を細め、笑みさえ浮かべつつ話す空を水菜は珍しそうに見ていた。
と、それに気付いたのか空は視線を逸らすと瞬き一つする間に笑みを消してしまう。
変わらず笑みを浮かべているようには見えるが、それはもういつもの空だった。

「腹ぁ減ったし飯にすっかな。水菜嬢ちゃん、一緒にどう? 世話んなったし奢るよ」
「あ、私はもう済ませましたから・・・すみませんけど・・・・」
「そけ、ほなオレは行ってくんわ。編成のこと、あんがとな」
それだけ言い残して空は部屋を後にした。
水菜はそれを見送ると愛用のお茶セットを広げて準備を始める。
やがてお茶の香りが部屋に広がる頃になってポツリと一言洩らした。

「相変わらず・・・あまり本当のところは見せませんね」
そして、お茶を啜るとふぅ…と一つ息を吐くのだった。

(2002.11.28)


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