回想  ―月の塔―

空 翔三郎

御剣叢雲を王都ラ・コリスディーまで送っていった空翔三郎はマドリガーレ邸の一室で
この屋敷内にある月の塔の主、ソフィア・マドリガーレに道中でのことを話していた。

「最後に、ありがとうございました、ソフィアさんによろしくってよ」
「そうですか・・・」
それまで沈黙を守っていたソフィアだったが最後の言葉にだけは短い答えを返した。
そして、少しの間を置いて確認のための問を発する。

「一つお聞きしますけど、シチルで叢雲さんを捕らえたのは空さんでしたよね?」
「ん、そうよ」
塔から見た時の叢雲と空の様子、今聞いた道中での話、そしてシチルで起きたであろうこと、
この3つのことは普通は重ね合わせることはできないと思われるのだが・・・

「変わってますね・・・」
「あん、そうやねぇ」
その言葉が向けられたのは誰であるのか、どちらも特に確認したりはしなかった。
そして静かな時間が流れる・・・空はソフィアを見ていた。かつて見た、その仮面の奥の瞳が
今は如何なる色を浮かべているのか、それを窺い知ることは出来なかったが。
ややあって空が席を辞するとソフィアの側に控えていたリリエが見送りにとついて出た。
部屋を出てから外へと向かう間に、空はリリエに聞いておきたいことがあった。

「リリエ嬢ちゃん、最近ソフィア嬢ちゃんはどうなん?」
「どう、と仰られますと?」
「ん・・・何か、前と比べて生気が、の・・・」
一瞬、リリエの表情が強張るのを見て取った空はそれ以上の言葉を続けなかった。
そして無言のまま見送られ空はマドリガーレ邸を後にした。
そこからソフィアの元へ戻る途中、リリエは中庭に通じる廊下でナハトを見かけた。
あの時と同じ・・・だから、リリエがナハトに向ける言葉にはそう違いが無かった。

「何を言いたいのかは分かりますよ」
「なら、何故だ? あれこそ害にしかならんと思うが」
「確かに色々と問題のある方ですけど・・・問題だけ、というわけでもありませんから」
そう言って、リリエは空を見送った方を一度振り返るのだった。


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空は通りからマドリガーレ邸を・・・月の塔を眺めていた。
以前の時点であの状態だった、あれから更に転戦を繰り返していると聞く。
今、リリエに会ったら間違い無く何事か言われることだろう。

「プラチナの悪魔、か・・・憎まれっけえいうて世にはばかれるもんでも無いよな」
誰にともなく呟くと空は背を向けて歩き出すのだった。

(2002.12.01)


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