回想  ―王城にて―

空 翔三郎

帝都ラグライナ、その王城内の謁見の間に空翔三郎は居た。
聖都決戦を前にして皇帝セルレディカへの報告を行うためだ。
事前の調査で得られた聖都の地形や相手の戦力に関する情報、そして
そこから考えられる作戦について空は軍議での内容を述べていった。

「作戦としたぁー以上です、何やありますか?」
「よい、クレア方面に関してはお前たちに任せる」
「了解です、ほな・・・最後に一つ、よろしいっすか?」
意外そうにしつつ無言で先を促すセルレディカに空は更に言葉を続ける。

「出来んなら、その前に人払いをば」
「ほう・・・」
今度は思わず声に出していた、それは空の言葉に含まれた意味が分かるだけに。
セルレディカは手を一振りして衛兵らに退室を告げる。
少しして、セルレディカと正軍師エル以外の者がいなくなると
ばさっ
空はその場に正座して手を付き、す…と頭を下げ平伏した。

「御無礼を・・・」
「よい、上げよ」
セルレディカの言葉に空は静かに顔を上げる。

「久しいな、お前がそうするのは」
「はい、第4を任せて頂いて以来になります」
いつもの方言混じりでは無い、いわゆる『普通』の話し方をする空。
それを知るのはセルレディカとその側に仕えるエルのみだ。

「で、用件は何だ」
「聖都を陥落させましたら頂きたいものが御座います」
「褒美の希望があると?」
「御意、願えますなら・・・」
続く空の言葉にエルは思わずセルレディカの方を顧みた。
セルレディカはわずかに訝るような反応しか見せず言葉を重ねる。

「また変わったものを望むな」
「恐れながら、私の性分のようなものかと」
「何故、それを望む?」
「興味があるからです、私の全てはいつもそこから始まりますので」
ふ、とその答えに笑みを洩らすとセルレディカは空に告げた。

「良かろう、本来オレが許可するようなものでも無いがな。お前の好きにするがいい」
「はい、お聞き届け頂きましてありがとうございます。それでは・・・」
その場で深く一礼し、立ち上がって再度一礼すると空は扉へと向かう。
そんな空の背にセルレディカは一つ、声をかけた。

「空よ・・・落とせると、思うか?」
セルレディカの言葉に空はニヤリと笑いこう返した。

「当ってみらな分からんからこそオモロイんやと思いますよ、どっちもね」
最後の一礼と共にその言葉を残し、空は部屋を辞した。
足音が遠ざかり静かになった謁見の間で先に言葉を発したのはエルだった。

「分からないから面白い、ですか・・・」
「あれは、ああいう男だ。ヤツなら落とすかもしれんな」
そう言ってセルレディカは再度ふっと笑みを洩らした。

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帝都ラグライナの軍病院、その一室にソフィア・マドリガーレは居た。
とは言っても入院したのではない、見舞いに来た相手が居なかったのである。

「ソフィア様、やはり空将軍は『お出かけ』のようですね」
「そう、負傷で戻られたはずですのにお元気なこと・・・」
病院の人間から話を聞いてきたリリエが苦笑ぎみにそのことを伝えるも、
予想の内であったのかソフィアは淡い微笑を浮かべながら答えた。

「それでは、また前のように?」
「ええ、そうしておきましょう」
ベッドの横にある台に見舞いの品とメモを置き、二人は空の病室を後にする。
部屋を出る際、ソフィアは振り返ると・・・何も言わずにそっと目を伏せるのだった。

(2002.12.08)


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