回想  ―風の吹く丘にて―

空 翔三郎

「あ、空さん。こっちこっち」
「おう、そこ居ったんか」
御剣叢雲の姿を見つけると、空翔三郎はその近くに行き腰を下ろした。
レヴァイアの反乱が収まって後、帝国の陣営に加わることとなった叢雲に
話があると呼ばれ空はこの場所に来ていた。
呼び出した割に叢雲は景色を眺めるばかりで一向に話し出す気配が無い。
空の方も特に急かしたりはせず景色を見やりつつ叢雲が口を開くのを待つ。
しばらくはただ風がそよそよと吹きすぎて行く音だけがしていた。

「……空さん」
視線は移さず景色を眺めたままで叢雲は声をかける。

「私がレヴァイアで指揮してた部隊、カルカシアで壊滅しちゃいました」
「あん、知ってんよ」
その後に何があったかも
続く言葉はあえて口にしなかった。

「分からないんです…」
ぽつりと一言、そして堰を切ったように話し出す。

「私が言った事で死んでいったのも兵士なら、あんなことしたのも兵士だったんです…。
 余所者の私が死なせちゃったんだから当然なのかもしれませんけど…
 でも…でもあの時の兵士は…自分達が楽しむためにそうしてるようにしか見えな」
かつてしたように、叢雲の頭に手を置くことで空はその先を押し止めた。
しかし、叢雲は静かに首を左右に振る。もう分からないままではいられないのだ。

「ふん・・・言うてしまえば、よくあることなんよ。そげなんはの」
しばしの間を置いて、空は口を開いた。

「世の中、色んな人間が居って、その中の一人一人も常に同じや無いしな。
 昨日は親切やったんが今日も必ず親切やとは限らんやろ?」
「???」
よく分からないといった顔をする叢雲に空は言葉を重ねる。

「例えば・・・そうね、オレとか。帝都で初めて遭うた時、シチルであげなん
 されるたぁー夢にも思わんかったやろ? つまりはそういうことなんよ。
 あんま難しゅう考えんと、何となく『ああ、そうなんだ』って思うときなぁ」
「でも、空さんの時とあの時とは何か違いました…」
その言葉に空の手がピクリと動いたが、叢雲は特に気付かぬ様子だった。

「空さん……また、話を聞いてくれますか?」
(大分参っとるようやの)
瞳に、訴えるものが強くなってきている。
自分の中では処理できず他人にうまく表すことも出来ない、そんな感じだ。
しかし、あまり受け止めるわけには・・・思考を巡らせたのはそこまでだった。

「ええよ。でも、叢雲嬢ちゃんのためには出来るだけ来ん方がいい。
 そやけえ、どうしても耐えられんごとなったら・・・そん時は、おいで」
こういう状態になったヤツは知っている、それがどういうものかということも。
限界が来れば壊れてしまう・・・受け止めずに済ませられるわけが無かった。

「???」
「いや・・・ええんよ、分からんでもな」
再度よく分からないといった顔をする叢雲の頭を撫でながら、空はふっと笑った。

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              ・

ざざぁ…
音を立てて風が吹きすぎて行く。今日も、ここはいい風が吹いていた。
街の外れにある小高い丘に空は来ていた。
ここからは帝都の街並みがよく見える、人の営みもまた・・・
一人一人を確認するまでには至らないけれども。
叢雲がここに居たのはそんな理由からかもしれない。

「元気にしとるかねぇ・・・」
そう呟く空の言葉もまた、風に乗って消えていった。

(2002.12.12)


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