出撃前

ヴェルナ・H・エイザー

第7部隊が鬼哭の里に待機してから暫くの時がたっていた。
その間に前線のリュッカではいくつもの戦いが続いていた。
「えっと・・・白峰さんが負傷して聖都へ、一騎討ちで飛鳥さんが敗退して同じく聖都へ、そして鴉さんが鬼哭へ後退と・・・」
ヴェルナは報告に来た兵の話をまとめていた。
「ということは・・・今リュッカにいるのは神城さんだけですのね」
「そういうことになります。なお、相手はまだ2部隊が残っている模様です。」
「わかりました。下がっていいですの。」
報告に来た兵はそういうと、頭を下げて退室していった。と、入れ違いにハヤテが入室してくる。
「よう、嬢ちゃん。ウチ等は前線出ぇへんのけ?」
「前線・・・ですの?」
「リュッカは神城はんだけやし、向こうは騎兵が2部隊や。今のうちに歩兵か騎兵に編成しなおして入ったほうがいいんちゃう?」
「・・・・・・」
「(一部のだが)兵もずっと待機じゃ暇そやしな、用件はそいだけ。んじゃ。」
そう言って出て行ったハヤテを見てはぁ・・・と溜息をつくヴェルナ。それを見たか後から綾火が声を掛けた。
「あまり前線には出たくないのですね?」
その言葉にヴェルナはコクリと頷いた。
「・・・人の死は見たくないですの。例えそれが敵方であっても・・・」
「ですが戦局は不利です。いずれは前に出ないといけない日は来るでしょう」
「・・・・・・」
綾火の声にも頷こうとはしない。
そこへ先ほどとは違う兵が報告にやってきた。
「何かありましたの?」
「シチル戦線なんですが、エアード将軍率いる部隊が壊滅したと」
「エアードさんが!?」
その報告を聞き、突然声を大きくする。
「負傷して聖都に戻ったとの事です。」
「・・・そうですの・・・」
「では、私はこれで。」
そういい、報告に来た兵はそそくさと帰っていった。
「・・・・・・綾火、聖都に騎馬の申請を。」
「前に出るので? 向かう先はシチルではなくリュッカですが?」
「わかってますの・・・」
綾火の問いにそう小さく答え、それを見て綾火も素早く行動を移す。
「了解しました。では行ってまいります。」
「あ、ちょっと。」
急いで出て行こうとする綾火を呼び止めて、その場にあったお守りを手渡した。
「これ・・・エアードさんに渡してあげてくださいですの。」
「え??? あ、はい。わかりました。」
そう言い、踵を返して聖都に向かっていった。
(しかし・・・何故に安産祈願のお守りを・・・? 気でも動転しておられたか・・・)

前線に出るということで葉隠さんを呼び寄せた。
ヴェルナにとって戦場に出るのは初めてのことだし、指揮系統の確認や兵の配置などについて聞いておくのが目的である。
「多少付け焼刃的なところはありますが、基本的なことはわかっているみたいですね。教える所があればおいおい教えていきます。ところでヴェルナさん?」
「? なんですの?」
「前線に出たことはありますか?」
いつもの微笑んだ顔ではなく、少々険しい顔で聞いてくる涼。
「いえ、ないですの。」
その問いに自然に答えるヴェルナ。それを聞き、
「では、私から言っておく事があります。戦場に出るからには斬る覚悟と斬られる覚悟をしておいてください。」
その言葉を出したときの雰囲気はいつもの笑った穏やかなものではなく、厳しく重みのある武士そのものの雰囲気だった。
「斬る、斬られるではなく殺す、殺されるの方が適切な気もしますが。」
「わ、わかりましたの。」
その雰囲気に圧倒されたのか、それとも戸惑ったのか少し押され気味に声を返す。
それを見てふっと緊張を解き、
「ところでヴェルナさん。騎馬隊に組みなおすそうですけど、乗れるんですか?」
その言葉に暫し場が静まり・・・
「・・・乗れませんの」
「では、今から訓練ですね。指揮官が乗れないでは話になりませんから。」
「は、はい。」
そういい2人は揃って勢いよく外に出て行った。

(2002.09.25)


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