(無題)

ヴェルナ・H・エイザー

リュッカに入り、お萩騒動が終わってから数日、神城将軍率いる紫電隊と合流していた。
「はぁ・・・おいしいお茶ですの。」
「どうも。ところで用があってきたのではないのですか?」
合流するなりのんびりとお茶を飲み始めたヴェルナを見て、紫電隊の指揮官―神城刹那は苦笑いしながら用件を訊ねた。
「あ、はい。えっと・・・前に出てきている向こうの部隊と交戦したんですのね?」
「ええ、そうですが。」
この時点で2部隊と2部隊。相手の数が減っているのなら数の上では有利であったろう。が・・・
「・・・では、準備が出来次第追撃に動く事にしますか。」
「そうしますの。」
そう言って、結論が出るとほぼ同時に1人の兵が報告にやって来た。
「申し上げます。前に出てきていた帝国の軍が後退を始めています。」
「あらあら・・・」 「おやおや、タイミングが悪いと言うか何と言うか・・・」
後退という言葉を聞くとほぼ同時に2人揃ってふぅ・・・と溜息をついた。
(報告のタイミング・・・悪かったのか・・・?)
報告に来た兵は2人のその様子を見て首を傾げるしかなかった。

―――数日後―――

「では、今日はこれくらいにしておきましょう。」
ヴェルナは自らの天幕に涼を招いていた。
雑談でもしようと思って呼んだはずなのだが・・・いつの間にか兵法の話になっていたようだ。
「あ、最後に。もうすぐ実際に交戦する事になるでしょうが逃げ腰にはならないように。」
「はぁ・・・どうしてですの?」
「指揮官が逃げ腰だと兵の士気にも影響しますから。」
なるほど・・・と頷いていると報告に来た兵が入ってきた。
「何かあったんですの?」
「はっ、ルーン方面から補給部隊がやってきた模様です。兵数は・・・約800というところです。」
補給部隊・・・それを聞きさっき聞いた話を思い出すかのように口を開いた。
「補給は出来る限り絶つ・・・そうでしたよね?」
「そうです。優先する目標はその部隊になりますね。おそらく後から指示が来ると思いますが。」

―――更に数日後―――

天幕の中には人が2人。1人は机に座り書類をドンドンと片付けていき、もう1人は入り口のすぐ近くで待機していた。
と、失礼します・・・といつものように報告兵がやってきたが、
「・・・・・・φ(。。)カキカキ・・・」
全く返事がない。仕方なしにもう1度声をかけようとするが
「仕事に集中している間は声をかけても無駄だ。やめておけ。」
と、入り口付近で待機していた綾火にあっさりと止められてしまった。
「用件なら伝えておくが?」
「あ、帝国の補給部隊を狙ってリュッカに巣食う山賊が現れたんです。」
「山賊だと? ・・・何所だ!?」
山賊と聞くなり報告に来た兵の首元を掴み、低い声で問い掛けた。
いつもの無表情で淡々としたものではない、他人に見せた事のないような態度で。
「く、苦しいです・・・離して下さい・・・」
首を締め上げられ苦しそうにガタガタと動く報告兵だが手を放す気配はない。
と・・・「綾火、何してるんですの!?」
後ろから声をかけられ、ふっ・・・と手を離し振り向いた。
「む、すみません。ところで仕事は終わったのですね。」
「えぇ。で、大丈夫ですか? 何か報告ですの?」
床に手をつき、咳込んでいる兵を見てヴェルナは背中をさすりながら用件を聞き出した。
「はい・・・大丈夫です。報告ですがリュッカ南東部に山賊が現れました。おそらく補給部隊を狙ったものだと。」
それを聞き、ヴェルナは顔を顰めた。
「・・・山賊ですの?」
その瞬間、報告に来た兵は寒気を覚え・・・頭の中で
(なんかヤバイ気がするぞ・・・ここは一気に逃げ出すべきか・・・)
こう考え、失礼します! と残し天幕から出て行こうとした。・・・が
「よ〜嬢ちゃん。偵察行ってきたで〜。と、ちょっと待てや。」
といい、かるーい調子で入ってきたハヤテにあっさりと捕まってしまった。
「なんや山賊らしいもんまで見かけたからそっちも見てきたけど、もう聞いとうか?」
「聞いてますの。見てきたんですか、山賊を。」
そう言い、険しい表情のままハヤテに問い掛けた。
「おぉ、もうバッチシ。会話まで殆ど頭に叩き込んであるわ。」
普段はおちゃらけてはいるが、偵察やらの仕事のときは真剣そのものなハヤテである。
何より、記憶力が取り柄だと自ら公言してるくらいであるから当然だろう。
山賊について偵察してきた内容を一部始終(このへんは山賊記を参考)伝えた。
「下衆が・・・」と、不快感を露にする綾火に
「馬鹿・・・いや、ゴミです。」と、普段見せないような言葉を紡ぎ、同じように不快感を露にするヴェルナ。
(なお、性知識皆無なヴェルナには最後のほうの話の意味はわかってはいないのだが)
それをみて、その場にいた兵は再び寒気を覚えた。
「国認定の略奪や言うとったけど、なんか聞いとうか?」
「ならず者を認める国もまたならず者、国がならず者に協力を頼む謂れなどないですの。」
ハヤテの言葉を遮って言い放つヴェルナ。その後、一言付け加えた。
「もっとも、聖都のうるさがた(神官や長老たちを指すらしい)の意向ならそれはそれで構いませんけど。」
そう言い捨て、その場にいた兵に告げた。
「伝令。私たちの目標は補給部隊、それに変更はありません。で、もしも山賊が近づいた場合、遠慮なく斬り捨てて構いません。
こちらからわざわざ向かうつもりはありませんが。」
その言葉に兵は疑問を抱いた。
(おかしい・・・いつもの将軍はできるだけ殺さず、傷つけずの筈だが)
それを見て取ったのか言葉を付け加えた。
「いつもと違うと思ってますのね。私は山賊は嫌いですの。略奪や殺人を平気でするようなものは・・・」
「わかりました。伝令行ってきます!」
そういい、それ以上は聞かずに外へ飛び出していった。
「・・・嬢ちゃん。確かにらしくなかったで。」
「言わないで下さい・・・」
「・・・山賊か」
天幕が沈黙に包まれた。


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なんて遅い時事SSなんだろうか・・・気にしないでくれれば幸いです(汗)


(2002.10.13)


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