それは一つの戦場の夜
フィアーテ・V・S・B
――シチル戦線・帝国軍第14部隊『WINGS』駐屯地
『WINGS』の駐屯地に張られている多くの天幕――その中に他の天幕に比べて多少大きいものがある。
その天幕の中にこの部隊の指揮官である、彼――フィアーテ――はいた。
「ん〜〜……今回は痛み分けって感じやね〜」
用意されたソファに腰をかけて、右手にはグラスを持っている。
カランカランと、透明なお酒入りのグラスに入った氷が音を立てる。
フィアーテは普段、酒を誰かと飲む事をしない……余程信頼している人間の前でしか飲まないと決めているのである。
理由は、彼自身にも良く解らない……若しかしたら酔った姿を他人に見られたくないのかもしれない。
もっとも、今まで酔った事はないのだが……。
「しっかし、面白い奴やったな〜機会あればもう一回やり合いたいもんや」
くっくっく、とフィアーテは笑う。
そして、サングラスを外して目の前にあるテーブルにグラスと一緒に置き、代わりに傍らに置いてあった二つの剣を取る。
「そういや、副官にあの嬢ちゃんがおったな……まぁ、あっちは俺の事を知らんやろうが」
蝋燭の光だけが照らす中、フィアーテの銀の瞳はまるで小さな月のように輝いている。
キィンと小さく甲高い音が天幕の中に響く。
抜刀されたそのロングソードは――見るものが見れば解るが、剣と言うよりも刀に近かった。
フィアーテは、蝋燭の光を鈍く反射しているその刃を銀の瞳で見つめている。
「さてと……今日はもう寝よかな」
そう呟いて、その名も無き剣を鞘にしまう。
そして、グラスに残っていた酒を一気に飲み干して、就寝の準備を始める。
――こうして、シチルでの戦の夜は更けて行くのだった――
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