寒きシチルの戦場
フィアーテ・V・S・B
1253年・クレア領『シチルの街』――午前9時
現在、フィアーテが指揮する帝国第14騎士団『WINGS』はシチルの街の郊外でクレアムーンの永倉光成率いる第3部隊と交戦中であった。
先の戦いで、同じクレアの部隊である風華率いる『天風』と交戦し、既に『WINGS』の兵は半分以上失っていた。
おまけに先程、第9部隊の『蒼翼隊』からの法術攻撃で更にその数は減っていた。
「さてと……どうするかな」
今はお互い距離を取り合って、様子を見ている。
とは言えども、暗殺者としての訓練を受けたフィアーテの眼には、相手方の部隊の陣地が微かに見える。
すると、フィアーテの耳に馬の蹄の音が聞こえてくる……数は一つだけのようだ。
(……来た方角からして翔君からの伝令やろうかね)
「フィアーテ様!!」
そんな事を考えていると、兵士の一人が自分の名を呼びながら走ってくる。
その手には長細い紙が握られている……どうやらフィアーテが考えた事は正解だったようだ。
兵士からその書状を受け取ると、開いて中を見る。
「ふぅん……なるほど……ま、しゃあないやろうな」
読み終わった書状を元の通りに畳んで、フィアーテは一人ごちる。
そして、書状を持って来た兵士に顔を向けて――
「悪いんやけど、カレンちゃん呼んで来てもらえる? 俺は自分の天幕に戻っとくけ」
「は、はい!!」
その兵士は敬礼をして、慌てて『WINGS』の副将であるカレンを探しに行く。
その後姿を一瞥すると、フィアーテはクレアの部隊の陣営に視線を向ける。
「また一からやり直すしかないやろうな……」
そう言って漆黒のコートを翻し、自らの天幕の方に歩き出す。
先程の兵士が、カレンを呼んでくるのにそんなに時間は掛からないと思われるのでそれまでに戻っておく必要がある。
――今日のシチルの戦場も寒い日になりそうだった――
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