寒きシチルの戦場2
フィアーテ・V・S・B
――帝国軍第14部隊『WINGS』駐屯地・指揮官『フィアーテ』の天幕
フィアーテ率いる『WINGS』は空 翔三郎率いる愚連隊と同時に戦線を下げた。
そして、現在はクレア第12部隊『天風』の真正面に位置するところに駐屯していた。
これから、シチル方面の帝国部隊は突出して孤立しているクレア第12部隊『天風』を包囲し、攻撃をかける手はずになっている。
その作戦の最終確認の為、指揮官であるフィアーテのテントに副将のカレンなどが集まっていた。
「まず、第5部隊が風華部隊の後ろから攻撃を仕掛け、その後、第8部隊が法術を仕掛ける事になっとる」
地図を指で指し示しながら、フィアーテが作戦をその場にいる全員に伝えていく。
その姿は普段とは打って変わって、冷静に戦場を見抜き、そして指揮をする『漆黒の魔将』の姿だった。
「『WINGS』……つまり俺らは第8部隊の法術攻撃が始まると同時に突撃するで……ええな」
それは問いではなく、命令……司令官である彼は常に兵士に死地に往く事を命令しなければならない。
例えばその中に、親友や親族がいたとしても……である。
別に辛くないわけではない……けれど、少なくとも自分が選んだ道ではある。
だから、躊躇せずに彼は兵士に命令を下す……指揮官が躊躇すれば、その部隊は壊滅する事になりかねないのだから。
――作戦会議が終って
「……選んだ道、か……そう言えばミルが言ってたな」
サングラスを外して、椅子に座り、誰もいない天幕の中でフィアーテは一人呟く。
その声は普段と違って訛りは入っておらず、普通の標準語であった。
「あの娘から教えられた事は多い……誰にでも幸せになる権利はある、か……」
サングラスを再びかけて立ち上がり、バサッとコートを翻して出口に向う。
その途中で立てかけてあった剣を取り、腰に差す。
「さて……一つ、気張ってみよか」
そう言うフィアーテの顔と言葉は既に普段のフィアーテに戻っていた。
「準備はどうや?」
言いながら、『漆黒の魔将』は太陽が輝く外に出てゆく。
帝国の将軍として……『WINGS』の指揮官として、シチルの寒き戦場で戦う為に。
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