合流

フィアーテ・V・S・B

――クレアムーン首都『聖都クレア』の郊外

うっすらと白く染まっている草原を颯爽と走り抜けていく一頭の馬。
その馬上には身体に漆黒の衣を纏っている若い男性と、純白の服を着ている若い女性と言う見事なまでに対照的な二人がいた。

「そうゆえばプリフライトちゃんって何か武術って使えるん?」

馬の手綱を握り、走らせている男性が後ろを振り向いて自分の腰にしがみ付いている女性にふと尋ねる。

「書記仕事は得意だけど、そっち方面は全然駄目だよ私……アリサみたいに魔法も使えないし」

手を振りながら男性――フィアーテ――の問いにプリフライトは否定の答えを返す。

「ふーん、んなら俺が教えたろうか?」

視線をプリフライトに向けたまま、フィアーテは再び問いを投げ掛ける。
今まで、何度か武術・暗殺術の教員として他人に教えた経験もある彼ならばそう難しい事でもない。
それにプリフライトは幼少時代を牧場で育っている為、基礎体力は意外としっかりとできており、文官でありながらも一般女性よりも数段上の体力がある。
腕力も辞書を片手で軽々と扱うところから割とあるようなので、問題はなさそうである。

「ん、そうだね……戦場に出るんだから少しは扱えたほうが良いよね」

「まぁな……んでも、プリフライトちゃんは結構才能あるんやないかな?」

プリフライトはその言葉に意外そうな表情をして――

「何で?」

と、フィアーテに尋ねる。

「ん? ああ、記憶力がかなり高いって聞いてんからな……一回教えられた事を忘れずにおれるっちゅうんはかなりプラスになるで」

「ふーん、そういうモノなんだ?」

「あん、宝石でも磨かんと輝かんやろ? あれと一緒で才能も鍛錬っちゅう方法で磨かんと何の意味もあらへんよ……お、見えてきた見えてきた」

二人の前方に帝国軍が展開している多くの天幕が見えてきた。
約2000の兵からなる帝国軍クレア攻略戦線軍の部隊の内の一つ『WINGS』
それがフィアーテが指揮官として率いている部隊の名前であり、今目の前に駐屯している部隊の名前である。
正確にはプリフライトの妹のアリサが指揮している『Schwalbe』も一緒の筈だから、目の前の部隊の約半分だが。

「あの『赫い翼』が描かれた軍旗を掲げているのがフィアーテクンの部隊?」

「ん、そうや、あれが俺の『WINGS』や……今はカレンちゃんが臨時で指揮を執ってくれとる筈やけど……おこっとるかな」

段々と近づいてくる自分の部隊を見ながら「あはは」とフィアーテは笑う。

「フィアーテクン、病院で『大丈夫やでー』なんて言ってたけどかなり無理して来てくれたんだね……」

フィアーテの物まねをして、ギュっとその背中に抱きつく。

「いやー、そんなに無理はしてないんやけどな」

フィアーテは、んーと唸りながらぽりぽりと頭を掻いている。
頭を掻くのはフィアーテが照れ隠しする際の癖なのである……最も、それを知っているのは極小数であるが。

「ま、取り敢えず疲れたやろ?まだ交戦地まで随分あるけ、ゆっくり休めるでー……何なら一緒のベットで寝るか?」

ニヤッと笑ってフィアーテは言うが――

「え? えと、私は別に良いけど……」

「がふっ」

顔を少し赤くして言うプリフライトのその言葉に撃沈された。


――余談だが、『WINGS』に合流した二人は副将二人組に愚痴を聞かされまくった。
最も、聞かされたのは主にフィアーテなのだが。
また、プリフライトがフィアーテと共に来た事は彼女の予想に反してかなりすんなりと受け入れられた。
その後、フィアーテはプリフライトの傷を治していくのだが、それはまた別のお話。

(2002.12.09)


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