決闘

フィアーテ・V・S・B

ガキィン!

「くっ!」

クレアの鎧を着込んだ武将・葉隠 涼はその鋭い斬撃を受けて後ろに下がる。
周りを見れば、元々交戦を始めた時点で少なかった彼女の歩兵部隊は更にその数を減らしていた。
最も元よりそう長くは持たないと思ってはいたので、彼女自身別段この状況を驚いてはいないのだが。
だから、敵将の首を求めて最前線を駆けた。
そして、その彼女が求めていた敵将……『WINGS』の司令官・フィアーテ・V・S・Bは今、彼女の目の前にいる。
その手に彼女の国の刀に似た剣を携えて……。
涼は辿り着きさえすれば、フィアーテの首を落とす事は可能だと思っていた。
実際彼女はクレアのどの武将にも引けを取らない武勇をその身に持っている。
しかし、涼は忘れていた。
フィアーテもまた、『最強』と謳われる帝国の将軍なのだと言う事を……。

「はぁはぁはぁ」

既に彼女の体力は残り少なくなっており、息を肩でしている。
自分が長年使ってきた愛刀が、今はやけに重く感じられた。
足取りも少しふらふらとするし、先程からフィアーテの斬撃を受け止めてきた腕は痺れてきていた。

「んー、葉隠 涼ちゃんやったけ? ええねぇ、ホンマええ太刀筋しとるわぁ」

その涼と対峙しているフィアーテは、右手に携えているロングソードを肩に置きながら笑っている。
息も少しも乱れておらず、平然としているその姿を見て涼は思わず心の中で「化け物だな」と呟く。
彼女が連れていた数人の兵士は既にフィアーテの二つの剣の露となって黄泉へと旅立っていた。

「やけど、俺にかつんはまだ無理そうやねぇ」

名も無きロングソードを肩から下ろしながらフィアーテは言う。
その様子を見た涼もまた刀を構えるが、彼女自身にももう結果は見えていた。
しかし、それでも彼女は戦う。
何故なら、彼女はそうするように育てられて来たのだから。
唯、巫女を護るだけ為に戦い、死ぬように育てられてきたのだから。

「さて、行くで……」

スッとフィアーテその手に持った剣を構える。
その構えは奇妙な構えだった。
地面と水平にして構える『平突刺』……それは通常肘を肩と同じかそれ以上のところまで上げる。
『平突刺』に限らず『突刺』は普通そうある筈なのだが、何故かフィアーテの構えは『平突刺』を構えている右腕の肘が腰の位置まで下がっていた。

「ふっ!」

裂帛の気合と共に、フィアーテが跳ぶ。
下から上に突き上げるような凄まじく速い『平突刺』が涼の喉を目掛けて襲ってくる。

「くっ!」

咄嗟の反応で涼は左に避ける。
しかし、そこからフィアーテのロング・ソードは涼を追って斬撃を派生してくる。

ガキィィン!!

火花を散らして交差する二つの銀の刃。
『平突刺』の勢いをそのまま利用している為、それまでの斬撃よりも強力な斬撃だった。
その為、刀を落としそうになり涼の反応が一瞬遅れてしまう。
そして、超一流の実力を持つフィアーテに取ってはその一瞬で十分だった。

ドッ!

その一瞬の隙を利用して、涼の鎧の腹に当たる部分に衝撃を徹した打撃を打ち込む。

「なっ……」

何かを言おうとして、涼の意識はそのままブラックアウトしていく。

「素手で鎧を着とる相手を倒すっちゅう方法は割と結構あるもんよ」

ロングソードとショートソードを鞘に納めて、気絶した涼を膝裏と背中に手を回して抱えながらフィアーテは呟く。

「まぁ、何せウチの奴らの中には鎧を素手で壊す化けモンもおるしな」

垂直跳びで5〜6m跳んだり、自分の足で走って馬を追い抜くような自分を棚に上げてフィアーテは呟く。
周りを見渡せばどうやら戦いは決したようである。
生き残った兵士はある者は自害し、ある者は逃走し、ある者は捕虜となった。

「漸くこの戦いも終わるかねぇ」

涼を抱えたまま、一人呟きながらフィアーテは自分の部隊『WINGS』の本陣へと帰還していく。


その後、クレア歩兵第四部隊は壊滅。
歩兵第四部隊の指揮官であった武将・葉隠 涼は帝国軍歩兵部隊『WINGS』の捕虜となったものと思われるがその後消息不明となる。
しかし、その後帝国内部で一人の黒髪の女性の姿が見かけられるようになるが、その正体を詳しく知る者は極少数を除いていない。

(2002.12.09)


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