狂い月・序章『夜の詩』
フィアーテ・V・S・B
――ソレはいつから兆候があったのかは覚えていない
――まるで太陽が沈み、夜の帳が降りる様に自然に来たような気もする
――いつものように生活していると、不意に奇妙な感覚に襲われる
――そして、自らの中で息づくソレの鼓動を確かに感じる
――最近、とある『夢』を見るようになった
――その『夢』は朱の世界
――まるで朱の華が咲いたような世界
――そこに『生き』ている『モノ』など唯の一つも存在しない
――そこに存在するのは
――即ち、闇から生まれしソレは『無』
――『無』は何も持たぬが故に、『全て』を欲っする
――しかし、『無』であるが故に『全て』を喰らう
――それでもソレは『無』であるが故に『全て』を求める
――『全て』の存在がこの世から無くなるまで
――それはまるで……
――狂った『月』のようにその輝きを瞬かせる
――しかし、ソレは狂っているが故に美しい
――狂っているが為に唯、唯……
――其処に在ろうとする
――そんな『夢』を最近見るようになった
――そして、ソレの鼓動は強くなる
――恐らくはその『トキ』は近い
――その『トキ』、どうなるのか……俺には解らない
――ああ、今夜は……
――こんなにも……『月』が綺麗だったのか
――そして、『狂い月』は目覚めのトキを迎える
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