狂い月・序章『夜の詩』

フィアーテ・V・S・B

――ソレはいつから兆候があったのかは覚えていない

――まるで太陽が沈み、夜の帳が降りる様に自然に来たような気もする

――いつものように生活していると、不意に奇妙な感覚に襲われる

――そして、自らの中で息づくソレの鼓動を確かに感じる

――最近、とある『夢』を見るようになった

――その『夢』は朱の世界

――まるで朱の華が咲いたような世界

――そこに『生き』ている『モノ』など唯の一つも存在しない

――そこに存在するのは

――即ち、闇から生まれしソレは『無』

――『無』は何も持たぬが故に、『全て』を欲っする

――しかし、『無』であるが故に『全て』を喰らう

――それでもソレは『無』であるが故に『全て』を求める

――『全て』の存在がこの世から無くなるまで

――それはまるで……

――狂った『月』のようにその輝きを瞬かせる

――しかし、ソレは狂っているが故に美しい

――狂っているが為に唯、唯……

――其処に在ろうとする

――そんな『夢』を最近見るようになった

――そして、ソレの鼓動は強くなる

――恐らくはその『トキ』は近い

――その『トキ』、どうなるのか……俺には解らない

――ああ、今夜は……

――こんなにも……『月』が綺麗だったのか


――そして、『狂い月』は目覚めのトキを迎える

(2003.03.15)


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