ヴィネのお仕事頑張るぞ! 第二回〜構えよ! ラピス・ローズ分隊
ヴィネ・ロンド
レヴァイアの軍隊が帝都へ迫っている――
そういう状況になって、ヴィネはラピス・ローズ分隊を
正式に組織することになった。
いままでやっていたヴィネの仕事には軍人は要らなかったので
最小限の人数だけでしか構成していなかったが、
ラピス・ローズ分隊は3日と経たないうちに2000人余りの
歩兵部隊に編成し直され、戦闘への準備は滞りなく進んでいた。
無論、ヴィネの戦闘能力に期待している人間はヴィネ自身を含めて皆無だったから、
帝都に大勢駐屯している兵士を出来るだけ無駄にしないための形ばかりの部隊である。
よって相変らずやる気も起こらないままだった。
ヴィネ自身は帝都に戻されてから最初のうちはそれなりに頑張っていたのだが、
仕事に慣れてくると違う部署に回されるというのを繰り返されたため、
いまでは次の仕事に移るまで問題が起こらなければ良いという考えになってしまっている。
新しいところに行くたびに17歳の貴族の少女ということで軽んじられるし、
実績を作る時間もないためそういう評価を変えることも出来ないので
仕事に身の入れようがない。
サーレス家がヴィネに不慣れな事を次々とやらせて失敗させ、
ロンド家の権威を落とそうと裏から手を回しているためにこうなっていることには
気が付いているが、気が付いたところで止めようもなかった。
ヴィネに言わせればこうもころころと仕事が変わっていては
大きな失敗をする暇すら無いのだが、
サーレス家にしてみれば宮廷内にロンド家のシンパを作らせないことも目的の一つであったから
ヴィネを一つのところに置き続けるわけにもいかなかった。
そもそもユーディスと別れて帝都に戻されたのも
ユーディスの力を少しでも削いでおこうという意図が働いたためだった。
方々に手を尽くしミーシャだけは前線に戻すことには成功したが、
戦争に多くの人材を裂いてしまっていて
国政を滞りなく行うには人手が足りないことも事実であったので
ヴィネ自身は帝都から動けずにいる。
「……はぁ」
ミーシャを兄の元に行かせるためにリーフ家を訪れた時のことを思いだして、
ヴィネは大きなため息をついた。
ルーデルやソフィアが帝都にいれば彼らに協力して貰えば済んだのだが
遠く離れた戦場にいては助力を得るのは難しく、
結局サーレス家とは消極的対立を続けているリーフ家の力を借りることにしたのだ。
気に入られていないとはいえ、リーフ家にとってはロンド家は取るにたらない存在だったし、
サーレス家に対しての嫌がらせにもなるのだから
それなりの誠意を示してみせれば頼みを受け入れるはず――
そう考えてのことで、幸いロンド家は資金だけは豊富にあったため交渉はすんなり通り、
ミーシャは兵士を率いて前線に向かうことが出来た。
ミーシャの件以外にも以前のパーティでリーフ家と関係が悪くなっていたのを緩和させる意図もあった。
リーフ家を頼り、それ相応の代価を支払ってみせたことで、こちらと事を構えることもなくなるだろう。
自分達の存在がリーフ家に利益をもたらすことになると思わせれば、
インカラは計算の出来ない男ではないから先の騒ぎのことは問題にしないはずだ。
サ―レスという大きな敵が居る以上、他に必要以上に敵を作るのは得策では無い。
そこまで考えて進めたものの、感情的にはリーフ家に頼るのは面白く無かったし、
こういうことはユーディスやミーシャにはなにも言わずに行っているので
愚痴る相手もいずに嫌な気分だけが鬱積してしまっている。
「まぁ……」
兄と妹がこういう思いをせずに済んでいるのだから
自分がここにいるのも無駄ではないに違いない。
自嘲混じりの笑みを浮かべると、
ヴィネはまた部隊編成の方にほうに意識をむける。
どうせ戦わないのだから補佐には出来るだけ若い人を入れようかと考える。
せっかく自分で選べるのに、また年齢のことで見下されることも無いだろう……
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