戦場に咲く兄妹愛【別離編】
ユーディス・ロンド
キリグアイの寸劇 〜ユーディス視点〜
モンレッド攻略戦での敗退により、帝国軍はキリグアイまでの一時撤退を強いられた。
とはいえ、一戦場での敗北などで全てが決する訳もなく、すぐさま次の作戦へ向けての準備が慌しく行われていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そんな中、神妙な顔で見つめあう三人がいた。
モンレッド攻略戦に参加していた帝国軍第19部隊「ラピス・ローズ」(通称ロンド隊)を率いるロンド家の三人…ユーディス、ヴィネ、ミーシャだ。
「・・・にいさま、それではそろそろ・・・」
「あー・・・そうだなぁ・・・」
「・・・・・」
妙に歯切れの悪い3人。
ロンド隊は今回の再攻勢の準備の為の補給の任を受けていた。
ただし、一軍全てを前線から外すには状況は厳しく、ロンド隊の補給担当者であるヴィネと、その護衛・サポートしてミーシャが帝都に向かう事となっていた。
これは、ロンド家の三人としては大事件である。
「本当に大丈夫か? 山賊が出たらどうする? もうちょっと護衛を付けた方がよくないか?」
「にいさま、心配して頂けるのは嬉しいですが、ヒルデ様もいらっしゃいます。安心して下さい」
「・・・・・」
少し離れた場所で苦笑しながら兄妹の様子を見ているヒルデが見ていたが、そんな事までユーディスは気が回らなかった。
「でもな・・・」
「私はそれよりもにいさまの方が心配です。どうかご無理はなさらずに・・・」
「大丈夫! こっちにはたくさん優秀な将軍がいるしね。それに、これはチャンスだよ。共和国最強のキロール将軍も来てる・・・これを倒せば、きっと俺の名も挙がるし、ロンド家もぐっと立場が補強されると思うんだ」
「・・・・・」
兄・ユーディスのそうした前向きな姿勢がヴィネは好きだった。
だが、今回ばかりは不安が先立つ・・・。
それは、今まで常に一緒だった兄と離れ離れになる為でもあったかもしれない。
「そんな顔するなって。それより、二人ともしっかり補給を頼んだぞ。みんなの生命線なんだから」
「はい。それは必ず・・・お任せ下さい」
「・・・ミーシャもそんな顔してないで。またすぐ一緒になれるよ」
先ほどからずっと押し黙ったままのミーシャに、安心させようとユーディスが笑顔を向ける。
最初に分隊の話があったときは「私はもうにい様のお役に立てないのですか?」と訴えるほど動揺していたミーシャは、今もうつむいたまま固まっていた。
「ヴィネ。ミーシャ」
そんなミーシャとヴィネの二人に優しく声を掛けるユーディス。
そしてその肩を抱き寄せると、強く、暖かく抱擁する。
「二人が後ろで俺を支えてくれる事を知ってるから、俺は頑張れる。二人が後ろで待っててくれるなら、俺は必ず戻ってくるから。だから、いつもどおりに笑顔で見送ってくれないかな?」
「はい・・・にいさま」
「にい様、ミーシャ、にい様のご無事を心よりお祈りしております」
二人を抱いたままのユーディスには表情は見えなかったが、そのいつもどおりの返事が何よりの答えだった。
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